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大好きなママとパパが結婚してくれたからこそ、俺達はこの世界に生まれてくることができたのだ。ある意味ではそれぞれの誕生日以上に、自分達にとっても大切な日だと認識していた。
だからこそ、今年こそはきちんとお祝いしたかったのに。
「最後に、ケーキ屋さん一応見てから買えるか。お店の人に、ちっちゃなケーキないか相談してみよう」
「うん……」
ホームページには高いケーキしか書かないことにしているかもしれない。一縷の望みをかけて、俺達は二人で家のすぐ傍のケーキ屋さんに足を運ぶことにした。
幸い、その時店には俺達以外に客はいなかった。理由はすぐ判明する。今日は何かイベントでもあったのか(そもそも土曜日はいつもこんなものなのか)ショーケースの中がガラガラになっていたのだ。殆ど今日の分のケーキは売れてしまったということらしい。
残っているのは四百円くらいするショートケーキやフルーツケーキと、三千円くらいするチョコレートのホールケーキとメロンケーキくらいなものだった。
「すみません……」
「はーい?どうしましたか?」
気が退ける、ものすごく。そう思いながらもお店の中に声をかけると、二人いる店員さんのうちおばちゃんの方の店員さんが振り向いてくれた。自慢じゃないけれど、俺も理貴も背が小さい。ショーケースに隠れてしまいそうな俺達を気遣って、店員さんが回り込んでこっちまで来てくれた。
「あの、店員さん!僕たち、ママとパパの結婚記念日のケーキが買いたいです!」
俺が何かを言うよりも先に、理貴が声を張り上げる。
「でも、あんまりお金なくて……ろ、六百円くらいで、四人分買えるケーキありませんか!」
「六百円……」
案の定、おばちゃん店員さんはとても困った顔で笑った。
「うーん、ホールケーキだと難しいし、ショートケーキでも四人分は……なかなか難しいわねえ。それに、今日はとっても人気だったから、もうケーキはちょっとしか残ってないの。そのお金だと、シュークリームも四個は買えないわね……」
「……やっぱり」
「二人で、お小遣いでケーキを買いに来たの?とっても親孝行なのね」
「ありがとう。でも、もっとお金溜めておけばよかった……。いろんなプレゼント見たけど、あれもこれもお金足らない……」
しょんぼりと肩を落とす弟。おばちゃん店員さんは少し考えて――やがて、ショーケースの向こうの若い女性の店員に声をかけたのだった。
「ちょっと、田中さんいい?ほんの少しだけお店の外に出たいんだけど」
「ん?……わかりましたー。行ってらっしゃい、原田さん」
「ありがとねえ」
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