わすれもの探し①:恋心

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わすれもの探し①:恋心

「さあさ、こっちよ」 「ひなげし…!もっとゆっくり…」 私の懇願も虚しくものすごい速さで駆けていくひなげしを必死に追いかける。 「ついたわよー!」 「はぁ…はぁ…はぁ…」 楽しそうなひなげしの元に息を切らしながらやっとの思いで到着すると懐かしい声が聞こえてきた。 「もみじ〜もう泣くなよ〜」 「うぅ…だって…」 そこには教室の隅っこにうずくまる小学生の私と、私の背中をさする凛都の姿があった。 あぁ…これはきっとあの日だ。 私は小学生の時、泣き虫で有名でよくからかわれていた。 最初は優しく対応してくれた友達も時間を重ねるとともに離れていった。 そんな中、凛都だけは私の傍を離れなかった。 いつも泣き止むまで背中をさすってくれて、楽しい話をたくさん聞かせてくれた。 どうして私にそこまでしてくれるのか不思議で、申し訳なくて、でも離れてほしくなくて。 いろんな感情に迷いながら私は確かある日彼に聞いたのだ。 「うぅ…ねえ、りんと」 「ん?なんだ?」 「りんとはどうして私に優しくしてくれるの?」 …そう、不安いっぱいで彼の目を見た私にアイツは言ったんだ。 「そんなの、もみじと一緒にいたいからだよ!」 「えぇ…?」 「おれ、もみじの笑った顔すきなんだ!それに、もみじといると楽しい!」 「どうして…?わたし、こんなに泣き虫なのに…」 「泣くのはもみじが優しいからだろ!それに、一緒にいたい気持ちに理由いらなくね?」 キラキラした笑顔で堂々と言ってくれたアイツを見て私は自覚した。 あぁ、凛都が好きなんだなって。 この日を境に私は、泣く回数が減った。 大好きな凛都の瞳に映る私は笑顔でありたくて。 楽しい時間をもっと過ごしたくて。 気付いたら友達もたくさん周りにいた。 「そういえばあったな、こんなこと」 「思い出した?素敵な恋の記憶」 ひなげしからの問いにそっと首を縦に振る。 でも… だからこそ、許せないのだ。 「素敵な恋、だったね。この時は」 「よし!それじゃあ次行くわよ」 「え…?まだあるの?」 張り切った様子のひなげしに手を引かれ私はその場をあとにした。
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