特殊な夢

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特殊な夢

「…ん?」 体のあちこちが痛むような感覚がする。 これは…そう、薄い布団やフローリングで寝転んだときのような… 「え…?」 …ここはどこ? 私はさっきまで確か同窓会帰りの夜道を歩いていたはずだ。 だが、明らかにここは屋内で、窓からは太陽の光が差している。 それにどこか懐かしいような…見覚えがあるような場所。 「気が付いた?」 「!?」 突然背後から聞こえた声に驚き振り返る。 「あなたは…?」 そこには真っ白なワンピースをきた可愛いらしい女の子が立っていた。 小学校高学年くらいの子だろうか。 「わたしはひなげし」 艶のある綺麗な黒髪をサラサラと揺らしながら彼女は微笑んだ。 「ひなげし…ちゃん?」 「呼び捨てでいいわ。だってわたしはあなたのことをとってもよく知ってるもの」 「…私のことを?」 私は首を傾げた。どんなに過去の記憶を遡っても『ひなげし』なんて名前の子は会ったことがないはずだ。 「私とあなたはどこかで会っているの?」 「そうとも言えるわ。でも違うとも言える」 「…どういうこと?」 「うーん、その答えを知るにはあなたにはやってもらわないといけないことがあるわね、芥江紅葉さん」 名乗っていないはずの私の名前をひなげしは涼しい顔で言ってのけた。 彼女が私を知っているというのは嘘ではなさそうだ。 だとしても、謎が多すぎる。 ここはどこなのか、目の前のひなげしと名乗る少女は誰なのか、私はどうしてここにいるのか。 …考えたらきりがない。 「まあ、そんなに難しい顔しないでよ。そうね…ヒントをあげようかな」 「ヒント?」 「うん、あなたが知りたいことはだいたい分かるからね」 心の内が見えないひなげしの笑顔をなんだかいびつで、恐ろしく感じた。 「まず1つ目、ここはどこなのか」 楽しそうに両手を横に広げたひなげしはにっこりと微笑む。 「ここは…まあ少し特殊な夢の中だと思ってくれればいいわ」 「夢…?」 確かに、分からなくもない。 久しぶりにお酒を飲んだのは事実だし、どこかで気を失ってしまった可能性は大いにある。 けれど、引っかかる。 ひなげしは今『特殊な』夢と言った。 それに、夢にしては体に走る痛みや頭の中の不安がやけにリアルだ。 「特殊、っていうのはどういうこと?」 「そうねえ、すごーくざっくり言えば紅葉はここから出られなくなる可能性がある夢の中かなあ」 「ええ!?」 それはつまり、ずっとこの夢の中の世界にいるということだろうか。 「ここから出られるかはあなた次第、あとは運次第ね」 「運って…」 「それじゃあ2つ目!」 情報処理が追いついていない私のことなどお構いなくひなげしは右手でピースをした。 「紅葉がどうしてここにいるか、そして何をするべきか」 「わすれもの探しよ」 「へ?」 わすれもの探し?そんな言葉は聞いたことがない。 忘れ物:どこかに物を忘れてしまうこと。 言葉通りなら誰かの忘れ物を探すということだろうか。 それならわざわざ私ではなくてもいいような気がするけど。 「わすれものってひなげしの?」 「ははっ!なにを言ってるのよ!あなたのわすれものよ、紅葉」 可笑しそうに目を細めたひなげしの言葉にまた疑問が浮かぶ。 「でも、私ここに来たのはじめてだよ?はじめてきたところに忘れ物なんて…」 「あらあら、本当にはじめて?」 「…え?」 ひなげしの言葉と同時に聞き覚えのあるキーンコーンカーンコーンという音が鳴り響いた。 学校のチャイムの音だ。 そしてここで目を覚ましたときのあの懐かしさ。 そうか…ここは。 「私の通ってた小学校…」 「ぴんぽーん!その通り」 「ここに、私が何かを忘れたの?」 「そうねえ…正確にはここではないけれど、とりあえずやってみた方が早いわよ?」 「やってみるってなにを?」 「言ったでしょう?わすれもの探しよ♪」 なにがなんだかさっぱり分からない。 でも、これ以外の選択肢はないのだと悟った私は大人しく『わすれもの探し』を開始することにした。
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