1.自分勝手

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1.自分勝手

「あー、イライラする」 頭のなかだけでは到底処理しきれない思いは声となって暗闇に響く。 ふざけないでよ。 …絶対に許さない。 思い出すのはつい数分前のあの言葉。 「ごめんな、紅葉」 中学の同窓会の帰り道。 明日も仕事があるからと1次会で帰ることにした私は同じく2次会は断ったらしい鈴山凛都に声をかけられた。 もう二度と、話すことなんかないと思ってた。 中学を卒業してからは関わりがなかった、私の25年の人生の中で唯一の元彼。 私を男嫌いに、人間不信にさせた人物。 そんなコイツから突然声を掛けられ何事かと思ったら次に聞こえた言葉は謝罪だったというわけだ。 「…は?」 「そりゃ、突然話しかけられて謝られたらびっくりするよな…でも…」 この辺りからは怒りに飲まれて凛都の話はほとんど覚えていない。 なにか言いづらそうに、それでいて何かを伝えうとしていたみたいだけど。 …私には関係のないこと。 「あのとき…中学のときさ…本当は…」 「あのさ凛都、時間が経って許してもらえるとでも思った?私達の時間はあのときのまま止まってるのに」 時間が経ったら忘れるとか、時が解決するなんて嘘だ。 忘れることが出来るのは傷付けた側だけ。 「紅葉…!」 「ただ、過去の自分の行いを正当化したいだけなんじゃない?」 「違う…!違うよ、聞いてくれ俺は…」 「…絶対許さないから」 まだ何か話したそうな様子の凛都にこう言い放ち、私は彼に背を向けた。 その場に立ち尽くす凛都を置いて足早に歩き出した私の口から出た言葉が冒頭の一言だ。 本当に自分勝手な奴。 過去の自分を許すために、過去に自分が傷付けた私から許されたがる。 どれだけの涙を私が流したのかも知らないくせに。 どれだけの時間、人を愛することが怖くなったのか分かっていないくせに。 私が泣いていた時間、どうせアンタは笑っていたくせに。 私が誰も愛せなかったこの10年間、アンタは平気で誰かに愛を囁いていたくせに。 「なんで…私ばっかり…」 怒りで燃えていた思いはいつの間にか虚しさに変わり、涙がボロボロとこぼれてくる。 アイツにとっては人生になんの影響もない一コマが私の人生に大きな影を生んでいることが悲しかった。 アイツにとって当たり前のように忘れることができる私たちの過去を、私だけいつまでも忘れられないことが悔しかった。 学生時代にありがちな小さな過ちでこんなに深く傷付けられてしまう自分の弱さが情けない。 あぁ…消えてしまいたい。 そのとき涙で滲む視界に一瞬影が見えたような気がした。
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