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第七章 告白
リコはあれから一週間、学校を休んでいた。
ユアがソラを理科室に呼んだ。
ここなら誰もやって来ない。
ソラが話を始めた。
「リコと連絡取れないけど何か知ってないか?
リコはユアと会ってから様子がおかしい。
多分これと関係してる。
見覚えあるか?」
ソラはスマホをユアに返して聞いた。
「ユアがあの時の女の子か?」
しばらく黙っていたユアが首を振って答えた。
「私、あの頃ユウって呼ばれていた。
覚えている?
同じ劇団の。
ソラがキャンプで遭難した時も一緒にいたよ」
ソラは驚いてユアの顔を見た。
「タカナシって苗字、小鳥遊って書くの。
小さい頃からコトリユウって言われてあだ名がユウになった。
最近まで女優を続けていたの」
「そうか、あの時の一緒に隠れんぼした子か。ユウは昔からうちらの中で一番お芝居が上手だったよな」
ソラは思い出して言った。
「通学路の看板にも私の名前あったと思うけどあれは去年撮った作品でヒロインの友達の友達役。
リコは私をヒロインって言ってくれてたけど、現実は端役ばかり。
だから女優辞めたんだ」
ユアはスマホを開けると、
「リコは自分で写真を消してたみたいだけど」
と言ってスマホの削除ファイルからリコの消した写真をソラに見せた。
そこにはソラと一緒に写っているショートヘアの少女がいた。
目尻のホクロが印象的な。
‥‥リコだった。
「あなたが一番辛い時に一緒にいてくれたのは誰?」
遭難した時に会った少女と、母親が亡くなった時に抱きしめてくれたリコが重なった。
「アイツ何で話してくれなかった?」
「ソラに気づいて欲しかったんだと思う」
ソラは走り出した。
ーーーーー
雪が降る高台の公園。
今日はクリスマスイブ。
昨日の夜から降り始めた雪が辺りを白く染めていた。
公園に一人、リコがブランコに座っていた。
ソラがリコの前に立った。
顔を上げたリコの目は真っ赤に腫れ上がっていた。
「おれにとって一番大事なのはリコの方なんだ。
さようならなんて言うな」
ソラはリコを抱きしめた。
「馬鹿な事言わないで。
ずっと探してたんでしょ?
イメージ通りだったでしょ?
やっと会えたんだよ?
同情なんか要らないから」
とソラを押し返した。
ユアがリコの前に来て言った。
「私はヒロインなんかじゃない。
ソラの探してた女の子はリコ、あなたよ」
スマホの写真を見せた。
子供の頃の二人の写真。
「え?だってそれ消したはずなのに」
リコは目を丸くして写真を見ている。
「あの少女がリコだったらって思った事もあった。
でも関係が壊れてしまいそうで確かめるのが怖かった」
ソラが苦しそうな顔をした。
「私はソラと同じ劇団で女優をやってたの。
私だってまだヒロイン役やった事ないよ。
だからもう女優辞めたの。
でも、あなたからいっぱい勇気貰ったよ。
また、チャレンジしてみようと思うようになった。
だから恋してる場合じゃないの」
そう言って、ユアも泣いていた。
「私より綺麗な子はいっぱいいるよ。
ソラはカッコいいから可愛い女の子が集まって来てきっと目移りしちゃうと思う。
私なんか面白くないしすぐ飽きちゃうよ」
リコの言葉にソラは首を振った。
「知らないだろうけど何度もリコに見惚れた事もあるし、リコといるといつも楽しくて時間を忘れてしまう。
俺、無愛想だからわかりづらいかも知れないけど」
リコとユアが目を合わせて笑った。
「本当にいいの?私なんかで。
ーーー私でもヒロインになれますか?」
「お前は最初からヒロインだよ、俺だけの」
彼は春風のような爽やかな笑顔で笑う。
そうだこの笑顔でソラを好きになったのだ。
今度はリコがソラをぎゅっと抱きしめた。
「王子様とシンデレラ!こっち向いて!」
ユアがスマホを構えて写真を撮ろうとしている。
ソラはカメラに入りやすいようにリコに頬を寄せた。
「近づきすぎ!恥ずかしいって!」
ソラの方を向くリコ。
ソラがその隙をついて、リコの唇にキスをした。
リコはそっと目を瞑った。
ホワイトクリスマス。
白い雪が二人のカップルの未来を祝福しているように見えた。
あなたが気づいてないだけで、あなたの周りにもリコのような子がいるかも知れない。
その人が側にいる事が当たり前になって軽くみたり、邪険にしないで。
その人はあなたを幸せを願い、寄り添ってくれている。
決して見捨てる事なく。
それを忘れないで。
平凡でも、ささやかなでも、それがあなたにとって一番の宝ものなのだから。
(おわり)
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