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冬吾さんのコートの後ろ襟に雪が舞い降りては消えていく。深夜にかけて大雪になるかもしれないとお父さんが言っていたけど、マンホールからも湯気が上がるほど、今日は空気が冷たい。
ブライアントパークのホリデーマーケットに来るのは二度目。前回はお父さんと。今日は冬吾さんと。
コートも冷えているのか、雪は冬吾さんの上で結晶の形を保ったままだ。
綺麗。
後ろから手を伸ばそうとしたら、急に冬吾さんが顔を後ろに向けた。振り向いた冬吾さんの視線は、不自然に肩よりも高く上がったままの私の手の上で止まっている。
「どうした?」
「いえ……なにも」
明らかな嘘を吐きながら手を下ろした私を見て、冬吾さんはフッと笑みを浮かべた。
「それなら、この手は僕が借りてもいいね」
返事をする前に、冬吾さんは手を取ってしまう。
「手袋を持ってくるべきだったな。指先が痛い」
「あまり冷えると、このあとの演奏に差し支えますよね。ポケットの中に入れていたほうがいいと思います」
「ああ、そうだね」
冬吾さんは一旦手を離したと思うと、腕を絡めてから握り、ストンとコートのポケットに入れてしまった。コートの中で指が絡み合う。
「歩きにくいからもう少し近づいてくれると嬉しいな」
冬吾さんはこのあとライブがあるから長くはいられないみたいけど、こうやってふたりでクリスマス一色に染まった街を歩けるだけでも嬉しくて、ツリーのオーナメントを選ぶことを忘れてしまいそうになる。
お父さんと滑ったスケートリンクを囲むように、ガラス張りの小屋が並んでいて、クリスマスのオーナメントからチョコレートやクッキーなどのお菓子、雑貨類と様々なものが売っている。
「スケートができなくて残念だね」
冬吾さんはスケートリンクを横目で見ながら言う。
「少しも残念じゃないです」
「僕は残念だけどな。もう少し時間があったら、花名と一緒に滑れたのに」
「滑れるのは冬吾さんだけですから。どうしてそんなに滑らせたいんですか」
「見たことがない花名が見られそうだからかな。滑っていたら、花名から抱きついてきてくれるかもしれないしね」
サラッと言われて、反応に困ってしまう。
「まあ、常にこのくらいの距離にいてくれるならスケートをしなくても済むかな」
冬吾さんは手を離し、私の腰に手を回し引き寄せてしまった。同じように歩いている人たちなんてたくさんいるのに、距離の近さに急に恥ずかしくなってきてしまう。
「あの……、早くオーナメントを探さないと」
冬吾さんの腕から抜け出して歩き出そうとしたら、腕を掴まれていた。
目の前には段差があって、靴先がぶつかっている。
「前を見ないと危険だよ。せめて手は繋いだままにして欲しいな」
「ごめんなさい」
「寒いから、どこか店の中に入ったほうがいいね。あの店は? オーナメントがたくさんありそうだよ」
少し先にある店を指さして、冬吾さんは私の返事を待つ。
「行きたいです」
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