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中に入ると、壁一面にオーナメントが吊り下げられていた。クリスマスボールだけでも何十種類もある。
「たくさんあって迷ってしまいますね」
「同じので揃える? 色んなのを買う?」
「色んなのがいいです」
私が雪景色を描いたクリスマスボールに手を伸ばすと、冬吾さんが取って買い物用の編みかごに入れてくれた。
店内にはホワイト・クリスマスが流れている。
サンクスギビングデーのあとから、どこへ行っても、ワム! マライア・キャリー、ジョン・レノン、スティービー・ワンダーなどお馴染みのクリスマスソングが聞こえてくる。
「冬吾さんはクリスマスソングって好きですか?」
「好きかどうかは考えたことがなかったな。勝手に耳に入ってくるから。聞き飽きたなとは思うよ」
あまり興味がないというふうに冬吾さんは答える。
「フランスのクリスマスソングって、日本やアメリカと違いますか?」
「まあ多少は。Vive le vent とか随分違うね」
「ヴィ……、ヴィヴ……」
「Jingle Bellsと同じ曲なんだけど、歌詞が全然違うんだよ。風って最高だよねみたいな歌で」
「風って、吹く風ですか?」
「そう。クリスマスの歌でもあるけど、新年も一緒くたに祝っている感じで。Jingle Bellsに当たるところがVive le ventになる」
そう言って冬吾さんは少し口ずさんでくれた。
「花名は好きなクリスマスソングがあるの?」
「クリスマスソングというわけじゃないんですけど、12月になるとジョージ・ウィンストンのDecemberというアルバムの曲をよく聴いていました。お母さんが持っていたCDでインストゥルメンタルのなんですけど」
「へえ、透子さんが。ジョージ・ウィンストンはAutumnしか聴いたことがない」
「ときどき思い出して弾いていたんです」
クリスマスが近づくと寂しい気分になって、お母さんを思い出しながらそのアルバムを聴いていた。
「僕も聴いてみたいな」
「CDは伯父さんの家に置いたままで」
「花名が弾いているのをね」
ダメかなというように冬吾さんは顔を横に向けて私を見る。そんな目で見られると困ってしまう。
「冬吾さんに聴かせられるような演奏じゃないんです」
「花名は本当に僕の前でピアノを弾くの嫌がるよね」
苦笑いされてしまったけど、もう随分鍵盤にだって触れていないし、本当に弾けないと思うから諦めてもらうしかない。
「お父さんに言ったら弾いてくれるでしょうか」
「ああ、花名が言えば弾いてくれるんじゃないかな」
「でも……」
「言いづらい? シンは喜ぶんじゃないかな」
「もしかしらお母さんの持っていたCDは、お父さんのなんじゃないかと思っていたんです。もし違ったらと思うと」
「たしかにジョージ・ウィンストンとかシンは好きそうだね。きっと違っても気にしないと思うけどな。僕から知っているか聞いてみようか?」
「いいんです」
私の中で勝手にお父さんとお母さんがふたりで聴いていたんだと想像していたから、そのままにしておきたかった。
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