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「僕はさ、素直じゃない笹野さんも好きなんだよ。でも、笹野さんは僕が本音を言うと喜ぶみたいだから、一応言っておくね。僕にとっては、笹野さんが当たり前のように僕と過ごしたがってくれる特別な日だと思っているよ」
特別という言葉にピクリと反応した笹野さんがこっちを向いてくれた。
「企業戦略に乗せられるのは癪だったけど、多分笹野さんが食べたいだろうと思ってチキンも予約してあるし、笹野さんが行きたいかと思ってイルミネーションが綺麗な遊園地のチケットも買ってあるんだ。悪くないでしょ。ジュールの誕生祭も」
「笹野さんが笹野さんがって、森緒くんも一緒に過ごしたかったくせに」
ぼそりと文句を言われたけど、僕は聞こえないふりをすることにした。
「ねえ、森緒くん。ダツごっこは本当にするの?」
「当然だよ。むしろメインと言ってもいい。そのためには練習が必要だよね。とりあえず今日は僕がダツの役をやることにするよ。それならいい?」
「……それなら、やってもいいかも」
満更でもなさそうに笹野さんが立ち上がって両手を広げてくれたから、今日はダツ役に徹しよう。
「僕がダツ役をやると若干危ないかもしれないから気をつけて」
「わかった。あまり助走をつけすぎないでね」
笹野さんはよし来いというように、両足を肩幅に開き腰を落として、キッチャーのように構えている。ダツはそんなふうには捕まえられないけど、それについて触れるのは止めておいた。どうせ飛び込むのは僕だ。
本気でダツごっこをしようとしている笹野さんが僕は大好きだ。
少し離れてから走り出した僕は、笹野さんに体当りすると見せかけて、そのまま強く抱きよせた。
びっくりして目がまん丸になっているであろう笹野さんを、このまま持って帰ってしまいたいような気持ちになる。
「笹野さんは、ジュール誕生祭に欲しいものとかある? 毒以外でね」
「それならいらない」と笹野さんが答えた。毒以外はいらないなんて言われると、買ってあるプレゼントが渡しにくくなるけど、ダツごっこの的だと言って貰ってもらうことにしよう。
「僕はね、あるよ。一生をかけて手に入れようと思っているものがね」
「僕たちはクリスマスができない」Fin
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