お見送り

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お見送り

「どーも!佐藤です~よろしくお願いします~」 「こんにちは~ありがとうございます~」  デイサービスの玄関まで迎えに来た職員が、娘に挨拶をしてから、少し腰をかがめ、俺に「佐藤さん、今日も来てくれてありがとうございます~」と、言った。  俺は、小さく「よろしくお願いします」とだけ言う。  来てくれてありがとうございますって何だ。俺はこんなデイサービス来たくて来ている訳じゃない。娘が連れてくるから仕方なく来ているだけだ。 「忘れ物ない?」  家を出るとき散々確認しただろ。子どもを幼稚園に送り出す母親か。  そう思いつつポケットを探る。あれ、ない……入れたはずの手帳がない。少し慌てる。家からここに来るまでの間に落としたか。 「ほら、忘れてたでしょ?」 「へ?」  そう言って自分のポケットから手帳を取り出した。くそ、性格の悪い奴め。  俺のリアクションがツボだったのか二人は、フフッと微笑んでいる。 「も~ボケてきちゃってね~この人、ツッコミだったのに」 「あ、そうだったんですね~」  ふざけるな、“だった”じゃないいんだ、“だった”じゃ。俺は、娘の手に収まった、何よりも大切なネタ帳をひったくるようにして奪い返した。  最初は渋っていたが、やはりこいつと居るくらいなら、デイサービスに来ていた方がマシだ。  杖をつきながら進む。くそ。何でスタスタ歩けないんだ。 「いってらっしゃい。楽しんできてね~」  三歩ほど進んだ背中に声がかかるが、無視して進む。 「聞こえてる~?」 「そこまで耳遠くないわ!」 「お、ナイスツッコミ」  我が娘ながら、性格が悪いにも程がある。コイツが先輩じゃなくて本当に良かった。 そうだ、俺は漫才師だ。俺はツッコミなんだ。 どうなってもボケてたまるか。
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