2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
お見送り
「どーも!佐藤です~よろしくお願いします~」
「こんにちは~ありがとうございます~」
デイサービスの玄関まで迎えに来た職員が、娘に挨拶をしてから、少し腰をかがめ、俺に「佐藤さん、今日も来てくれてありがとうございます~」と、言った。
俺は、小さく「よろしくお願いします」とだけ言う。
来てくれてありがとうございますって何だ。俺はこんなデイサービス来たくて来ている訳じゃない。娘が連れてくるから仕方なく来ているだけだ。
「忘れ物ない?」
家を出るとき散々確認しただろ。子どもを幼稚園に送り出す母親か。
そう思いつつポケットを探る。あれ、ない……入れたはずの手帳がない。少し慌てる。家からここに来るまでの間に落としたか。
「ほら、忘れてたでしょ?」
「へ?」
そう言って自分のポケットから手帳を取り出した。くそ、性格の悪い奴め。
俺のリアクションがツボだったのか二人は、フフッと微笑んでいる。
「も~ボケてきちゃってね~この人、ツッコミだったのに」
「あ、そうだったんですね~」
ふざけるな、“だった”じゃないいんだ、“だった”じゃ。俺は、娘の手に収まった、何よりも大切なネタ帳をひったくるようにして奪い返した。
最初は渋っていたが、やはりこいつと居るくらいなら、デイサービスに来ていた方がマシだ。
杖をつきながら進む。くそ。何でスタスタ歩けないんだ。
「いってらっしゃい。楽しんできてね~」
三歩ほど進んだ背中に声がかかるが、無視して進む。
「聞こえてる~?」
「そこまで耳遠くないわ!」
「お、ナイスツッコミ」
我が娘ながら、性格が悪いにも程がある。コイツが先輩じゃなくて本当に良かった。
そうだ、俺は漫才師だ。俺はツッコミなんだ。
どうなってもボケてたまるか。
最初のコメントを投稿しよう!