一ヶ月前

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一ヶ月前

「なんでだよ!」  今まで幾度となく言ってきたこの言葉だが、あの瞬間が、間違いなく一番心がこもっていただろう。  あれは、一ヶ月前の夕食の食卓。決定事項のように突然娘が告げてきた内容に、俺は驚愕した。 「デイサービスなんて絶対行かないからな!」 「いいじゃん、おじいちゃん友達できるかもよ?」 「それな、てか、また面白い人居たら、コンビ組んで漫才すれば良いじゃん」 「あ、でも、おじいちゃん、最近ボケてきてるから、ツッコミじゃなくてボケかもね」  三人の孫達まで、俺をいじって遊んでいやがる。幼い頃から劇場に連れて行ったり、バラエティを見せたりしてきたのは、紛れもなくこの俺なのだが、純粋さとは恐ろしい物だ。 「何で急にそんな所行かなきゃいけないんだ!」 「私、今度から仕事忙しくなって、日中お父さんのことずっと見てられないからさ」 「留守番くらい一人で出来るわ!子どもじゃねえんだよ!」 「子どもじゃなくても、年寄りでしょ?そこの段差でコケたのは誰よ!まだ、杖が必要になっただけだから良かったものの」 「コケてない!つまづいただけだ!」 「もっと脆いじゃない!」 「……そ、それにしても、勝手に申し込むなよ!ジャニーズのオーディションじゃないんだよ!」  渾身の例えツッコミも誰にもウケなかった俺には、もう大人しくデイサービスに通うという道しか残されていなかった。   「佐藤さん!佐藤さん」デカい声と左肩への強い力で現実に戻された。なるほど、相方はこんな気持ちだったのか。 「すみません、急に止まったから、具合悪いのかと思って」 「……いえ、大丈夫です」 「そう、ならよかった」  そう言って微笑まれる。くそ、気を遣われる笑いなんていらない。
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