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伝言ゲーム
「はい、では次のゲームやりま~す。皆さん、好きな席に座ってくださ~い」
「はい、これからやるのは、伝言ゲームです。こっちの端の田中さんに、職員が伝言する言葉を耳打ちするので、田中さんから順番に隣の人に耳打ちをしていってもらって、最後、回答者の佐藤さんが言った言葉が合っているのか、というゲームです!」
伝言ゲームのルール説明なんてそんなに丁寧にしなくて良いだろ。あと、周りも何でそんなに真剣に聞いているんだ。で、何で俺が回答者なんだ。目立たないようにと端に座ったのが運の尽きか。
長い説明をしていた職員が反対側の、……ナントカさんに耳打ちしてゲームはスタートした。頷いているが、本当にわかってるのかは定かではない。勿論、耳打ちしているから、こちらには何も聞こえてこないのだが……。
「え?お好み焼き食べたいって言った?」
次の人がナントカさんに聞き返している。
もうルールが破綻しているじゃないか。ナントカさんが、ボソボソと耳打ちをする度に、「え?たこ焼き?」
「何?お腹いっぱい食べたいって言った?」
「聞こえないよ」と、繰り返す。
「ああ、はいはい」
何度目かで次の人は、納得したようだ。ブチ切れずに何回も言い直したナントカさんは、本当にいい人なんだろう。
「お金持ちになりたい!」
伝言ゲーム中にはおよそ聞かないであろう声量と内容が、少し聞こえ辛くなってきた俺の耳にまで届いた。
「なんだって?」
おい、アンタは志村けんか、リアルひとみばあさんか。
そんな調子で、次・その次も、ゆっくりと時間を掛け聞き直したり、一個前の人に戻って確認したり等、伝言ゲームかどうかも曖昧な様子でゲームは進む。職員さんの丁寧な説明を忘れたのかと言いたいほどだ。
しかし、なんやかんやで伝言は繋がれ、俺の前の人まで言葉が伝わり、俺より少し若そうな女性がこちらを向く。
「おとといから寝てない」
小声で囁かれたそれは、先程漏れ聞こえてきたものとは明らかに違う文章。
「え?もう一回」
俺も聞き直してしまったじゃないか。
「だから、お正月が近い!」
どうやらこの人は、聞き返されるのが無理なタイプの人だ。
今聞いた答えは、先程聞いた答えとも、漏れ聞こえた物とも……たぶん違う。もう一度聞き返そうか迷ったが、横目で発せられる無言の圧に押され、俺は答えを出すことにした。
ここは、自分が聞こえた答えを言って外した方が、流れを遡るときにどこで変わったのかわかって面白くなるはず。そう期待して、「お正月が近い!」と、答えた。
「お~!正解!!」
え?嘘だろ。
唖然とする俺を差し置いて、周りの人たちは喜んでいる。
「すごい!伝言ゲーム成功したの初めてじゃない?」
「ホントね!途中違ってたから、成功しないと思ってた!」
「佐藤さん、すごいね~さすが持ってるね~」と、各所で笑いが起こっている。
くそ、偶然の笑いなんて欲しくない、変なところで笑うな。イライラしていたら腹が減ってきた。
そう思ったら、そろそろ昼食の時間だ。
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