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「何が『普通』かなんて人それぞれです!」
思っていた以上に大きな声が出て、顔が熱くなる。チーフはびっくりしたように目を見開いていた。
「チーフがさっき仰っていたじゃないですか。大多数の『普通』が世間の『普通』になってるだけだって。クリスマスだってその、どこかの誰かにとっては特別な日じゃなくて普通の日、かもしれないし……。だから、その、そんなに気にすることじゃないと思います」
勢いよく話し始めたものの、締めくくり方がわからないまま、中途半端に文を切り上げた。私の悩みよりずっとずっとチーフの悩みの方が重くて、私なんかが「気にすることない」なんて言うのはおこがましい気もしたから。
驚いた顔のチーフはすぐにいつもの優しい顔に戻り、ゆっくりとコーヒーを飲む。小さく息を吐いてから私に微笑みかけた。
「ありがとう」
「いや、すみません……」
「どうして謝るの? 謝ることなんかないよ」
「私なんかが、知ったような口利いちゃって」
私がそう言うとチーフはからからと笑った。そんなことないよ、と言いつつ、私の手の中の空き缶をそっと取り上げてゴミ箱に捨てる。飲み終わったなんて一言も言っていないのに、よく気がつく人だ。だからきっと、他人の痛みにも気がつくし共感して寄り添えるんだろう。
「今日のことは、お互いに秘密ね」
悪戯っぽく下手くそなウインクを私に飛ばし、チーフはコートを羽織る。私も少し笑って足早に更衣室へと向かった。
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