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着替えを済ませて外に出ると、チーフは律儀に私を待っていた。すみません、と頭を下げると、チーフは笑いながら扉の鍵を閉める。
聖夜の空気はきんと冷たく、息を吐くと目の前が白く染まる。空気が澄んでいるせいか、木々に巻きつけられたイルミネーションがちかちかといつもより眩しく見えた。
駅までの道をチーフと並んで歩く。すれ違う人々は皆どこか幸せそうだが、先程のような醜い羨望は胸に浮かんでは来なかった。チーフに話を聞いてもらったからか、チーフのように幸せに見える人でも何かを抱えていることを知ったからか。多分どっちもだな、と思いつつ息を吐く。白い息はすぐに空気に溶けて消えた。
2階の駅へと続く階段が見えてきた頃、チーフが口を開いた。
「ありがとうね、話聞いてくれて」
私は慌てて首を横に振り、こちらこそ、と頭を下げる。話し始めたのは私の方だ。
ラッピングされた荷物を抱えて階段を駆け降りる男性や、手を繋いで階段を上ってくるカップルを横目にチーフは呟く。
「『特別』も『普通』も人の数だけあるんだよな、きっと」
私はその言葉に頷く。誰のことも好きになれない私は、きっと周りから見たら『特別変なやつ』なのかもしれない。でも、私にとってはこれが『普通』だ。チーフだってそう、娘と血の繋がりがないのは『特別』なことかもしれない。でも、本人たちにとってはそれが『普通』なのだ。誰になんと言われようと。
「チーフと話せて、よかったです」
私は微笑んだ。寒さで鼻の頭を赤くしたチーフは照れ臭そうに頬を掻く。
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