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「じゃあ、気をつけて」
階段を上り、改札の前でチーフは軽く手を上げた。私も頭を下げて背を向けたところで、はっと気がついて私は振り向いた。息を大きく吸う。
「チーフ、メリークリスマス!」
私の声に振り向いたチーフも、メリークリスマス、と言いながら手を振った。じわりと目頭が熱くなって、慌ててもう一度頭を下げる。なんで涙が出るんだ、と思いつつ手でごしごしと目尻を拭った。手の甲にアイライナーの黒い線が移り、それが妙におかしくなって小さく笑う。
今日はクリスマス。特別な一日。私にとっては、普通の一日。でも――今日は特別な日だ。私を否定しない人と話せた日。そしてその人の幸せを願って、メリークリスマス、なんて言えた日。いつぶりだろう、誰かにそんなことを言ったのは。私はただ、そうやって誰かと笑い合えるだけで良かったんだと気づく。普通も特別も関係なく。
電車の窓の外に目を凝らすと、闇夜にちらほらと暖かな家の光が浮かんでいるのが見える。
チーフの家の明かりも、あんな風に暖かいといいな。そんなことを思いながら、ひんやりとした窓に額をくっつけて目を閉じた。
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