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第1話
歩と一緒にブラン共和国に行き、現地のギフト障害を解決してから一年が過ぎた。
フォルス社がブラン共和国を手助けしたニュースが世界的に知れ渡ってからは、ブラン、フォルスと双方が注目され続けている。そして、名も大きくなっていった。
辻堂は車を駐車し、当たりを見渡しながら歩き進んでいく。大きなドームテントが点々としているここは、相変わらず風が流れていて気持ちがいい。
多くの人がドームに滞在しているようだ。今日は結婚式があったのだろうか。
更に人がいる方へ歩き進んでいくと、知っている後ろ姿を見つけた。新郎新婦の方を向き拍手をしている。
「おまえな…今日帰ってくるはずだったろ?」
「いっ…伊織さん!」
隣まで近づいていき、耳元で小さな声で話しかけたのに、びっくりされ大きな声で名前を呼ばれてしまった。
「帰国してそのまま来たんですか?」
歩は驚いた顔のまま、辻堂を見ている。
拍手していた手は固まったまま宙に浮いていた。
「お前が帰って来れないって言うから来たんだ。どういうことだよ」
「連絡入れたじゃないですか。ちょっと予定が伸びてしまったんです。メッセージ送ったでしょ?返事もくれたじゃないですか」
まぁ、知ってる。
予定がズレてしまったから、もう少しここに滞在するとメッセージを貰った。辻堂は飛行機の中で読み、「わかった」と返信もしていたが、ここまで来てしまった。
会いたかったから仕方がないだろう。歩の予定を知ってるだけに、少しばつが悪い。
結婚式の輪から二人は外れるが、そのまま小さな声で話を続ける。
「ちょっとってどれくらいだ?」
「...1週間くらいです」
「だろ?だから来たんだ。同じ国にいるのに1週間も離れてるなんて考えられん」
我ながら強引な理由づけだと思うが押し切る。言葉に出して伝えるのは大切だというのは、もうとっくに学んだことだ。
「ベエラ王国に行ってたんですよね?今日、帰国だったんでしょ?」
「ああ、白夜で体内時計がおかしくなり、ギフトに影響が出てたが、開発した簡易的メンテナンスをして、今は皆何とか元に戻っている。今回は言葉が通じたから、大きく躓くところはなかった」
ブラン共和国の一件があってから、同じように問題を抱える国が浮き彫りになった。
政府の後押しもあり、同じような問題を抱えている国に、フォルスは手助けをしている。ギフトメンテナンスをブランド化することに成功し、新たにメンテナンスの簡易的パッケージ商品として各国へ売りに出し収益を高めていた。
簡易的メンテナンスは、誰でも簡単に使用できメンテナンス場所も選ばない。今の時代、個人がそれぞれ寛げる場所でメンテナンスをするのを求めているようだ。なので、フォルスはそこに注目して開発を進め作り出した。
ただ、どうしても簡易的になるため、年に一度はフォルスが進めるフルコースのメンテナンスをして欲しいと伝えている。フォルスのメンテナンスを受けるとギフトはクリーンな状態になり、障害を回避することができるからだ。
なので、辻堂は政府と一緒にギフトメンテナンスを必要としている国へ頻繁に出向きこの商品とその後のフルコースでメンテナンスを受けれる物を提供したり、交渉をしたりしていた。
歩は派遣会社を辞め、今は自分で仕事をアレンジしている。完全フリーランスとして通訳の仕事と同時に、通訳業の人材育成の仕事も始めた。
あれからずっと、歩と一緒に暮らしている。心配していた歩の症状も改善されていた。
あの頃の歩は、辻堂に言われるまま一緒に生活を始め、自分の症状を心配しながら、目まぐるしい生活を送っていたと思う。
何とか自分が持っている多言語ギフトを使いこなしたい一心で、辻堂を信用し言われる通りに動いてたところを感じる。少し心配になるほど無防備な時もあった。
それが、たった一年しか経っていないが、その頃とは大きく違い、今の歩には頼もしさを感じる。それは辻堂が焦るほどだ。
「空港から遠かったのに…でも会えて嬉しいです。伊織さん、おかえりなさい」
結局、歩にこういう、はにかむような笑顔を向けられるから、離れているとすぐに会いたくなり、用がなくても来てしまうんだと辻堂は思った。
「伊織さん、宿泊するよね?」
「ん?ああ…あっちにあるドームに宿泊する。お前が帰れる日まで泊まる予定だ。俺はどこにいても仕事は出来るからな」
「ええっ!本当に?1週間あのドームに泊まるの?」
少し離れた所にある大きなドームを歩が指差した。ここは以前、辻堂が歩を探して訪れた場所だ。
ドーム型テントに泊まりグランピングが出来たり、結婚式をあげたりする人達もいるという。一年経ち、かなり施設も充実している。歩はここに仕事で滞在していた。
以前、必死になって歩を探し出したのを思い出し、辻堂は懐かしさを感じた。
「うっわ…あそこのエリアは高級なドームなんですよ。冷暖房完備してて、お風呂も付いてるんです」
「お前、仕事はいつ終わる?結婚式の仕事なのか?」
「はい。今日だけ結婚式で通訳のお手伝いしてますが、いつもは人材育成の仕事してます。そっちのスケジュールがズレちゃってて…。今日の仕事はもう終わりますよ」
「わかった。先に行ってるから終わったら来いよ。あのドームでディナーも出るって言ってたぞ。滞在中の食事も二人分で予約してあるから」
あと少しで今日の仕事は終了だと歩は、嬉しそうに辻堂を見て微笑んでる。辻堂は先にドームに向かい歩を待つことにした。
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