忘れものを忘れていた。

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 あれから一年が経ち、また今年もやってくる『漫才頂上決戦』。昨年の準優勝コンビである俺たちは『雪辱を晴らしに』とか『忘れものを取りに』とか、そんな枕詞でもって飾りたてられ、順調に駒を進めていた。  決勝に進めるコンビは9組。そして、敗者復活戦で勝ち上がってきた1組を加え、計10組での決勝戦となる。 「──エントリーナンバー589番、風鈴。決勝に進めるコンビは以上となります」  9組目のコンビ名が呼ばれ、会場には歓喜と落胆、両方のため息が漏れる。俺たちは後者だ。  相方がぽんと肩を叩いてくる。 「敗者復活、頑張ろうな」  相方、羽柴(はしば)真太郎(しんたろう)はいつもこうだ。切り替えが早く感情のコントロールもうまい。冷静で賢い。こんな時、いつも俺は大声で相方に言ってやりたくなる。  お前は悔しくないのか、と。
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