忘れものを忘れていた。

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 運の悪さは連鎖するもので、俺たちはトップバッターとして敗者復活戦のステージに立つこととなった。今日の最低気温は3℃らしい。空は曇天。夕方には雪の予報。  こんな最悪な天気の中、会場はコアなお笑いファンで埋め尽くされていた。ステージでは司会を務める中堅芸人がさっそく笑いをとり、会場をあたためてくれている。 「清水、おでん」  ステージ横に設置された簡易テントの中、ストーブの前で手をかざしていると目の前にぬっとおでんが現れた。紙の容器には、大根、こんにゃく、たまごにチクワ。 「少しくらい食べないと」  相方が母親みたいなことを言い出して少し笑える。そういえば今朝からろくになにも食べていない。食欲がないし、食べようにも胃がそれを受け付けない。緊張というよりは虚無だった。どうせ勝てない。そんな想いが、ずっと心の奥底で膝を抱えている。  容器を受け取り、とりあえず大根を半分に割る。白い湯気がたちのぼり、出汁がしっかりと染みたそれは確かに旨そうで一口だけかじってみた。じゅわりと汁が口いっぱいに広がり、やわらかい大根が喉を過ぎ、胃へと転がりおちていく。
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