忘れものを忘れていた。

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 信じられない。そんな顔をしたいのは俺のほうだ。相方は相変わらず笑って拍手を贈っている。なんで。どうして。そう思っているのは俺だけか? 悔しくてたまらないのは俺だけか?  なつやすみの二人が割れんばかりの拍手で送りだされるのを見送ってから、俺はさっさとステージをおりた。もうここに用はない。早く帰って暖房の効いたあったかい部屋で酒を飲むんだ。  競馬場を出ると駅に向かう客の集団の姿があった。みな、同じ最寄りへと向かっている。時おりチラッチラッと振り返られ、こそこそと話す声が耳についたが、それもどうでもいい。なんとでも言え。どうせ俺は敗者だ。  せかせかと足を動かし、一心不乱に駅へと向かう。会場を出る直前、相方に呼び止められたような気もするが、話すことなどなにもない。終わったのだ。俺たちの一年は敗者として幕を閉じたのだ。  改札を抜けホームへと向かい、電車の到着を待つ。寒い。本当にバカみたいに寒い。かじかむ手をコートのポケットへと突っ込み、イライラと身体を小刻みに揺らす。その瞬間(とき)だった。
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