忘れものを忘れていた。

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「去年、テレビで『はしみず』の漫才を観ました。わたし、ちょっと色々あって笑えなくなってたんですけど、お二人の漫才を観ていたら笑ってました。ちゃんと笑えました。それがうれしくて……ああ、わたしはまだ笑えるんだなって思ったら、元気が沸いてきて。それで、いつかお二人に会えたらお礼を言おうと思ってたんです」  えへへと。白い息を撒き散らし、一息に語られた想い。照れくさそうに、うれしそうに笑っているくせに、彼女の目には涙が浮かんでいる。  これからも応援しています。そう言い残し彼女はコートを翻して去っていった。  電車に乗り、白い紙袋を開いてみる。肉まんがふたつ。きっとひとつは相方の分なのだろう。まだほんのりとあたたかいそれを手に持ち、がぶりと一口。あったかい。旨い。あったかい。旨い。  気がつけば涙がこぼれていた。  去年のあの時だって泣かなかったのに。  今日だって泣かなかったのに。
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