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『市駅、市駅です。市役所、保健センターへお越しの……』  車内アナウンスと同時に電車は減速を始めた。  裕太はスマホをポケットに仕舞って、肩に掛けたトートバッグの中から定期入れらしきものを取り出し、降りる体勢に入った。  ──ほら! やっぱり『市駅』だ! よし!  私は心の中でガッツポーズを作る。  やがて電車が止まりドアが開くと、車内に居たほとんどのお客さんがほぼ一斉にドアの方に流れていく。  え? 市駅ってこんなに人が降りるの?   慣れない私は圧倒され、流れに流されるままホームに降りた。  あれ!? 裕太は!? 先に降りたはずの裕太の姿が見当たらない。  私は改札に向かう人波に埋もれながらも、その隙間から必死で彼の背中を探した。こういう時、背が低いのは本当に不利だ。  同じ車両だったからわりと近くに居るはずなのに……無理して背伸びをすると、足首がぐにゃっとなってバランスを崩しかけた。  ひゃっ、瞬間、後ろから腕を掴まれる。 「何してんだよ。危ねーだろ」  ──え?  私の記憶の中にある声より少し低いけど、聞き覚えのある声だ。  振り向き、見上げると、彼は何事もなかったように前を向き、私の腕を掴んで支えてくれていた。  その表情を見て、気付いた。  確か小学校の運動会の障害物競走で捻挫した私に一番に気付いて、無言で保健室に連れていってくれた裕太。小さい頃から私より背が低くて、泣き虫で、同い年なのにどこか年下扱いをしていた私だったけど、その時の彼の表情を見た瞬間、唐突に恋をした。  十年経っても何も変わっていない。  いつの間にか私より背は高くなったけど、裕太はあの頃の裕太のまま。  そして私は、裕太のことが好きな私のままだ──。
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