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~十歳のクリスマス1~
裕太は、公園のブランコに一人、ポツンと座っていた。
昼下がり、冬休みに入ったばかりの近所の公園は親子連れで賑わっていたけれど、彼はとても寂しそうだった。
「裕太!」
名前を呼ばれた裕太が振り向くと、そこには息を切らしながら真剣な表情で立ち尽くす結奈の姿があった。
瞬間、裕太はみるみるうちに目に涙を浮かべ、今にも大泣きしそうな表情になる。
結奈はそんな裕太に近づき、手に持っていたサンタ帽を上からそっと深く被せた。
「泣くな、裕太。今日はメリー……クリスマスだよ」結奈は言った。
彼は頷き、ズズッズズッと鼻を啜る。
「聞いた? 引っ越しのこと……」
「うん、聞いたよ……さっき、裕太のおばあちゃんから」
「行きたくない……結奈と離れたくない」
裕太のその涙まじりの言葉に、結奈は胸が締め付けられる思いがした。
結奈だって同じ気持ちだった。裕太とはこれからもずっと一緒にいたいし、一緒にいれるものだと勝手に信じきっていた。
「結奈とはもう会えないの?」
その質問に結奈は答えられなかった。
本当は二人とも気付き始めていた。この別れが、もしかしたら一生のお別れになるかも知れないということに。
だからそれを肯定して認めることなんて出来なかった。だって二人は、お互いが離れたくないことを知っているのだから──。
そんな二人がこの事実を受け入れるためには「また会える」という未来への確かな約束と、その証が必要だった。
それだけが、今日の二人の「さよなら」を笑顔に変えてくれる──。
「ね、裕太! 私いいこと思いついた!」
裕太は不思議そうな眼差しで首を傾げ結奈を見上げる。
──行こう!
結奈はさっと裕太の手を取り走り出す。
──目指すは駅だ!
物心ついた頃から今日まで、家族のようにいつも当たり前に近くにいた存在が、明日にはもう別々の地で暮らすことになる。
だったら今のうちに繋がっておけばいいんだ。そうすれば私たちはまたどこかで必ず会えるはず──結奈はそう考えたのだ。
目の縁に溜まっていた涙は走る勢いに流されて、いつの間にかその跡さえも消えていた。
二人は手を繋いだまま駅を目指し、笑顔で駆けていく。楽しい。この時間がずっと続いて欲しいと願いながら。
そうして辿り着いた駅の切符売り場で、裕太が尋ねた。
「ねえ、結奈、どこ行くの?」
「市駅だよ!」
結奈は悪戯っぽい笑顔を見せて答えた──。
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