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「そういうんじゃないんです! 」
「そういうんじゃない? 悪いけれど、私は媚薬は売っていないわ。どうしても欲しいなら、他の魔女を当たって頂戴。」
「び、び、び、媚薬 ?! 」
依頼人のディエリーという少女の顔は真っ赤になった。
そんな彼女の様子をリェフは不思議そうな顔をしてみていた。
私の師匠が変なことを言って本当にごめんなさいとムメは思った。
どこをどう見ても、こんな大人しい女の子が媚薬を求めて、山の奥にある魔女の屋敷まで来たなんて思えない。
「あのび、媚薬なんていりません。そもそも私は勇気がなくて碌に話しかけることも出来なくて。」
(わかる。わかるよ。その気持ち。
まあ、私は声を掛けるどころか、目を合わせることもできなかったけどね。)
ムメは心の中で共感しながら呟いた。
ディエリーは恥ずかしいのだろうか、顔を真っ赤にしながら話し続ける。
「あんなカッコいい男の人が私みたいなただの村娘を恋人にしてくれるわけないです。だから、本物じゃなくて幻でもいいから彼に優しくされたいんです。」
「わかります! 」
反射的にムメは叫んでしまった。
びっくりしたようにリェフと依頼人は彼女の方を見た。
ムメは二人の視線を受けて、かちんこちんに固まってしまった。
(ああ、やってしまった。師匠の大事なお客様の前で叫ぶなんて。
これはもう師匠に破門されて元の世界に追い返されてしまうのでは?
でも、あまりにも気持ちが分かり過ぎたのだ。私だって、何回も好きになった人が夢の中に出てきて優しくしてくれないかなとか思ったから。
(いや、この依頼人の可愛い女の子も、こんな陰キャのコミュ障に気持ちが分かるなんて思われても困るかな。)
ムメはそんなことを頭の中でグルグルと考えた。
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