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「忌々しい?」
ムメはセギロの言った言葉をオウム返しにしていた。彼女の脳裏にふとセギロの弟子に家の屋根に大きな穴を開けられても、好意的に彼のことを語っていたフェイマのことが脳裏に過った。
「ああ。私がそうまで思っているのに微塵も気が付かずに好意的に接して来る鈍感さも正直耐え難くてね。あのような女とその弟子に、わたしの師匠の魔力が受け継がれたのだと思うと、吐き気すらする。」
そうやって、話している内に、いつの間に最上階の屋上のドアの目の前に辿り着いていた。
セギロは振り向いて微笑んだ。
「さて、心の準備はいいかね?」
そして、彼はそのドアを開けた。
その屋上に何百人もの魔法使いがいた。
その魔法使いたちは大きく書かれた魔方陣の上に立っており、その効果を発動させる為のものであろう、詠唱を一斉に唱えている。
これだけの魔法使いが一斉に詠唱をしている様子は、いっそ壮観でなぜか歌っているかのようにも思えた。
その中にスタールもいた。
彼の元気な様子を見て、彼はホッとしてしまった。
「スタール!」
そう言ってムメが彼に近付こうとすると、
リェフが「ムメ!」と言って、腕を掴んで無理に引き留めた。
その一瞬、後にドンという音がした。
ムメはまぶしさを感じて、咄嗟に目を瞑ってしまった。
彼女がリェフに引き留められなかったら、いたであろう場所が黒く焦げている。
スタールがこちらに向かって手を伸ばしていた。
(ま、まさか、スタールが今のをやったの?)
ムメはそう思ってパニックになりかけたが、ふと彼の様子がおかしいことに気が付いた。奇妙に顔が無表情で目が虚ろなのだ。
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