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「全くこんな目に遭うなんて冗談じゃない。」
そうスタールが吐き捨てるようにして言った後に、指を鳴らすと見る見る内に体が渇いていく。
(スタールの体の穴は広がってなさそう。師匠は、これがどんどん広がって行って最終的には呪いを掛けられた人自体が消えてなくなってしまうんだって言っていたけれど。知り合いにこんな呪いが掛けられているなんて心臓に悪いから、さっさと解けてほしい。)
そんなことを思いながら、ムメがスタールを見ていた。
すると、その視線に気が付いたのか、彼は「何、さっきからジロジロ見てるんだ。」と言って、睨みつけてきた。
「あなたになにか異変がないかよく見ておけって、師匠から言い付けられているの。ちょっとぐらい鬱陶しくても我慢して。」
ムメは淡々と言った。
はっきり言って、彼女はスタールが苦手だ。
そんなムメを見かねて、師匠が彼に接する時には、できるだけ堂々として言いたいことを言えばいいとアドバイスしてくれたのだった。
そんなアドバイスを実践するのは、コミュ障のムメにとっては難題だったが、呪いと言う差し迫った課題がある上に毎日顔を合わせているので、否応なく少しづつ出来るようになっていった。
すると、スタールも反省したのか、「悪い。」とぶっきらぼうに謝ってきた。
彼は悪い人ではない。
それはムメにも分かっていた。
そうして、気まずい雰囲気のまま、二人一緒に黙々と屋敷に帰るために歩いていると、スタールがムメに話し掛けてきた。
「なあ、親や故郷を捨てて魔女の弟子になって本当に良かったのか。」
その言葉を聞いて、ムメは顔を強張らせた。
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