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「月蝕の進行を抑えられるなんてよくそんな残酷な嘘を吐けるわね。そんなありもしない希望を見せられた側は、余計に苦しむことになるのがどうして分からないの?」
リェフはセギロを怖い顔をしながら、そう詰った。
しかし、彼は平静とした態度のままだった。
「流石にそこのお嬢さんではなく、君は騙せないか。確かに、月蝕の進行を抑えられるというのは嘘だ。しかし、大事な人が徐々に蝕まれていくのを眺めることしか出来ずに絶望していた人間に、ささやかな希望を見せるのが悪いことだと言い切れるのかね?」
セギロのその言葉を聞いて、ムメは強い怒りを覚えた。
(悪いと言い切れるに決まっているじゃない! そもそも、そんな嘘を吐かないでいてくれたら、スタールだってこんな組織の一員にならずに済んだのに!
彼以外にも騙されてこの組織の一員になってしまった人たちもいるんじゃないの? )
ムメがそんなことを考えていると、リェフが口を開けた。
「くだらない詭弁を聞かせないで。少なくとも私の弟子の前で、月蝕を抑える方法を知っているというのが偽りだったことを告げてもらって、しっかりと謝罪をしてもらうわ。」
彼女は冷たい声でそう言った。リェフにそんな声でなにかを要求されたら、大抵の人間は恐れをなして断れないだろう。
しかし、セギロはそんなリェフを鼻で笑い、
「全くその如何にも自分が正しいという生意気な態度は、お前の師匠のフェイマにそっくりだよ。私はあいつのことをずっと忌々しいと思っていた。」
と言った。
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