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「どうして……何で……幸人が殺されなければいけないんだっ! 俺が……もっと早く来ていれば幸人はっ!」
いざ芝居に入ると、さっきまでヘラヘラした人とはまるで違った。
泣き叫ぶシーンなんて難しいはずなのに。
「はい、OK!」
えっ! 一発OK⁉︎
「あの、監督。もう一度やらせてください」
「えっ?」
「俺が納得行かないので。宜しくお願いします!」
だけど、玲央は一発OKなのにも関わらず何テイクも撮り直しを要求した。
「ちっ。役者気取りかよ」
他の役者はまたそんな玲央の陰口を叩く。
俺なんか何テイクもやるだけでまいったのに自らやりたがるなんて。
「そうですね……一番最後のシーンが俺は良いと思ったんですけど」
「そうだね。最初のより天王寺くんのアドリブ追加後の方が良いと思う」
「ありがとうございますっ」
美月も言ってたな、玲央はストイックだと。
普段寝坊したり料理失敗したり間抜けなとこばかり見てたから忘れてたわ。
「おい、玲央。まだ寝ないのか?」
「うん、台本読み込みたいからね」
「ん? 台本2冊?」
「こっちは今日海斗と出た方でこっちは年末にやるスペシャルドラマの台本」
「仕事多すぎだろ」
「言ったでしょ? センターとリーダーは大変だって。片手間にやってるって思われたくないからたくさん頑張らないとね」
さっきの役者達が言ってた事やっぱりしっかり覚えてんじゃねぇかよ。
「別にあいつらが言うほど演技下手ではないだろ。泣き叫ぶ演技とか俺には無理だし……」
「海斗! 海斗も良い死に様だったよ!」
「お前! 生きてるシーンを褒めろよなっ!」
こいつの事は気に食わないままだけど努力は認めてる。
センターでリーダーなのはこいつが俺よりもずっとずっと長くアイドルの仕事に手を抜かなかったからだ。
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