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インターフォンが鳴った。
俺が応答するより前にガチャガチャと鍵を開ける音がして、俺の部屋の鍵を渡してある唯一の女が入ってきた。
「なんかマンションの前でこの階のあたりを恨めしそうに見ている女の人がいたけど」
優越感が溢れる表情。
愉快そうに笑う彼女は持ってきた缶ビールとつまみの一部をリビングのローテーブルに出し、残りを冷蔵庫に入れた。
「あ。プリンみっけ。
なにげにマーキングしてる女(ひと)がいるね」
俺はヨーグルトしか食べない。
それを彼女も知っている。
冷蔵庫にあるプリンやティラミスは他の女が持ち込んだ物だ。
「洗面所の洗顔料みたいに名前書かれないだけ、まだマシだけどな」
以前、女を牽制する為に女性の名前を書いた洗顔料を置いたことがあった。
カーラーだのアイロンだのを置いたこともあった。
全て、この彼女の案だ。
俺の反応などお構いなしに缶を開け、一人で飲み始めた。
俺も隣に座り、缶ビールを開けて一口飲む。
「また本気にさせちゃった?」
コンビニで買ってきた砂肝を頬張り、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる彼女。
面白がってるようにしか見えない。
「かもな」
「また私の出番かな? ね、お兄ちゃん」
そう。
俺は面倒なことになりそうになると、妹に本命の女のフリをしてもらう。
そうやってのめり込んできそうな女には、深入りしすぎる前に諦めてもらう寸法だ。
もちろん最初から俺に姉妹はいない事になっている。
彼女と俺は兄妹と言われなければ誰も気付かない程、似てもいない。
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