忘れもの

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 あ、降りないと。  慌てて座席から立ち上がると、後ろから声を掛けられた。  振り返ると、青ざめた顔の少年が上目遣いでこちらを見、「忘れもの……」とこちらの服の裾を掴んでいた。  その力はあまりに弱々しくて、その高くか細い声を聞き逃していたら、きっとその手は難なく外されて、私は気づくことなく降りてしまっていただろう。  ありがとうとお礼を言って受け取ると、少年は満足そうに頷き、掴んでいた手を放した。  一命をとりとめた病院のベッドの上で、そのときのことをぼんやりと考えている。  あの忘れ物は、少年が渡してくれたのは、あれは、私の命だったのだろうか、と。
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