第11話 夜にする話*

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* 「ハア、ハア……あー……疲れたァ……俺はもうダメっす……」 「お前、ほんっと体力ねぇなぁ」  やたらと激しい二回戦――二宮は最初は優しいが、大体二回目から激しくなる――が終わった後。 「そういや、さっきの質問の答えだけど」 「え? さっきの質問って……?」 堂島はベッドの上で息も絶え絶えになりながら、かろうじて二宮に返事をした。 「なんで俺は女の扱いがヘタなのか、ってやつだよ」 「あ、ああー……」 「俺の親父、女と浮気して出てったって話、前にしただろ?」 「え、何それ初耳っすけど」 「あれ? あ、悪い。これ話したのお前じゃなくて榛名さんだったわ」 「なんで俺より先に榛名君なんだよ!?」  堂島は急に元気になり、大声で突っ込んだ。 「まあまあ、そのときは話さざるを得ない状況だったっつーかな。まあそれは置いといて……」 「そっちの状況の方が気になるんスけど!」  二宮は、堂島の文句を無視して語り始めた。 「俺の両親は俺が高校生のときに離婚してんだけど、親父の浮気現場を見つけたのは俺だったんだよ」 「はあ!? マジでどういう状況!?」  あっちもこっちも気になる状況ばかりだ。とりあえず榛名の件に関しては特に隠す気もないようなので後から聞くとして、堂島は二宮の過去話を集中して聞くことにした。   「その日、朝は普通に学校に行ったけど急に熱が出てすぐに早退したんだよ。それで自分の部屋で寝ようとしたら、隣の親父とお袋の部屋からギシアンする声が聞こえてさ……普通に両親かと思って『うわマジか』って思ったんだけど、その時お袋はパートに行ってる時間帯だったから、まさかと思って玄関に靴を確認しに戻ったんだ」 「そ、それで……?」  堂島は思わずゴクリ、と生唾を飲み込んだ。ある意味怪談などよりもよっぽどホラーな話だ。 これが見知らぬ他人の体験談ならば、スリルがあって妙に笑えるのだが、恋人の高校の時の体験談とくれば話は別だ。 「親父の会社用の革靴と、若い女物のヒール靴があった。帰ったときはフラフラしてて違和感に気付かなかったけど。――それで、どうしようか迷ったけど、熱で判断力低下してたってのもあるし……とりあえず俺が帰ったことにも全く気付かないでヤり続けててムカついたから、思いっきりドアを蹴破ってやった」 「おーまいがー……若いって怖ぇ……そ、それで中の二人は……?」 「女は俺を見ると悲鳴を上げて親父から離れて、親父は間抜けな格好でビックリしてた。ははっ、あの時のオヤジの顔と姿思い出すと未だに笑える。その時点で殴り合いになったりはしなかったから良かったけど。俺、熱でフラフラしてたからもしそうなったら負けてただろうからな」 「アグレッシブな親父じゃなくてよかった。いや、若い女と午前中から不倫してるだけで十分アグレッシブか……?」  話の途中で、二宮はいつもの電子煙草に火を点けた。 そして、煙くない煙をふーっと吐き出しながら話を続けた。 「――それからはもう、二度と家族に顔向けできねぇって思ったんだろうな。親父はそのまま荷物をまとめて女と一緒に出て行って、俺はそれ以降親父の顔は見ていない。お袋は弁護士を通じて離婚の手続きやらしてたんだろうけど、詳しいことは俺と弟にはほとんど話してくれなかったし、俺も聞かなかった」 「……なんていうか、結構な修羅場体験っすね……」  堂島はなんと言っていいのか分からずしばらく黙っていたが……結局、他人事のような感想を絞り出した。 「……でも俺は、あの時の行動を結構最近まで後悔してたんだ」 「え、後悔って? 最近までって……?」  そういえば先月、二宮の様子はずっと変だった。 もしかしてそのことが何か関係しているのだろうか? 「俺があのとき少しだけ大人になって……親父の浮気を見て見ぬフリをしていたら……両親は表面だけは仲良くて、俺は奨学金を借りずとも大学に行けて、弟も同じように進学できてただろうなって。お袋にも辛い思いをさせずに済んだのかも……ま、わかんねぇけどな、どっちにしろ親父は不倫相手を選んだから、いずれは離婚してただろうし」 「……」  今度こそ何を言っていいのかわからなくて、堂島は黙った。 「ドアを蹴り破る前に相手の女がさ、ヤッてる最中にベラベラ喋ってたんだよ。アナタの息子さん達も年食ったババアよりも私みたいに若くて綺麗なママの方が喜ぶでしょ、みたいなことをさ……」 「うわ、性悪だその女!」 「おう。それで俺はその時高三で、とっくに反抗期も終わってたし、一丁前に母親に育ててくれたことを感謝して尊敬できる年頃だった。だから余計に許せなかった」 「先輩、もしかしてそれで……?」  堂島は二宮の心境を勝手に想像した。 もしそのとき二宮がまだ童貞だったのなら――それでなくても父親のそんな現場を見てしまったなら、それ以降女性と付き合うことがトラウマになってもおかしくはない、と。
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