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第12話 朝にする話
「お、はようございます……」
「おう、オハヨ」
二宮は朝からタバコを吸っている。自分と同様に、何も身につけてはいない。
いつの間にか身体は綺麗になっていた。本当に後始末をしてくれたらしい。
昨夜自分のナカに、沢山吐き出したモノも……。
「ナマでするの、やめてくださいよ……」
「なんで? ちゃんと全部掻き出してやったからいいだろ。つーかお前、意識なくても俺に指で掻き出されてる時アンアン喘いでエロくて最高だった。またヤりてぇ」
「猿だ! オッサン猿がここにいるぅ!」
「は? てめーもオッサンだろが」
「俺、まだ20代だもん……普通に傷つく……」
「わりぃ」
四つしか違わないのに、自分がオッサン呼ばわりされることには抵抗がない二宮は優しく堂島の頭を撫でた。
自分が言われたくないなら言わなきゃいいのに、なんて説教はしない。──朝なので。
「二宮先輩はやさしいなぁ」
「惚れ直したか?」
「いっつも惚れ直してます~」
堂島はわざとらしくピトッと二宮の腰辺りにくっつき、顔を擦り付けた。
「あっそ、光栄だわ」
「うへへ。自分で言って照れてる人~」
「それはお前だろ」
「……」
今度は言い返せなかった。
*
「――ところで昨日聞きそびれたんスけど、二宮先輩は両親の離婚を後押ししてしまったことを後悔してたのに、なんで最近になってそう思わなくなったんスか? そう思えたキッカケはなんだったんですか?」
コンビニで買ってきた朝食を食べながら、何気なく堂島が質問した。
二宮は、思わず飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになったが耐えた。
「ゲホゲホッ……は?」
「は? じゃなくて。それって先月辺り先輩の様子がすげーおかしかったことと何か関係あるんですか?」
「おまえ、俺が落ちてたの分かってたのか? 演奏失敗したとかじゃなくて」
「ッたりめーでしょ、恋人ナメんなよ。あんな練習してたのに先輩が失敗なんかするわけないじゃないですか。……先月は気を使ってちゃんとスルーしてあげてたんだから、答えてくださいよ」
「……!」
二宮は普段は鉄壁のポーカーフェイスなのに、今はあからさまに困惑顔をしていた。
らしくも無く桜を見上げたり、突然結婚しようと言ったり、あんなにバレバレな態度だった癖にこの先ずっと隠し通すつもりだったのかと思うと、堂島は少し二宮にイラッときた。
「……俺には、言えないことっすか?」
「そういうわけじゃないが」
「じゃあどうして教えてくれないんですか! ……いや俺だってね、最初は無理に聞くつもりはなかったですよ。先輩が自分で話してくれるまで待つつもりでした。でも昨日自分で言ったでしょ? 最近まで後悔してたって。じゃあ何がキッカケで自分の行動を後悔しなくなったのかって気になるでしょーが、普通に。あとさっきの不自然な態度な」
「話すのは少し、心の準備がいるというか……」
二宮にしては珍しく歯切れが悪いというか、しどろもどろだ。
(この感じ……マジかよ。もう原因はアレしかねぇじゃん)
昨夜はあんなに激しく愛し合ったのに。
3回で終わりかと思ったら結局5回もすることになって、最後は気を失ったのに……。
(俺のこと初めて大事にしたいと思ったとか言ってたくせに……ムカつく!)
セックス中に囁かれる甘い言葉は信じるなというが、本当にその通りだと思った。
「……心の準備ってのは、俺に殴られる心の準備っすか?」
「は? なんで俺が殴られるんだよ?」
遠回しに言いたくないので、ズバッと切り込んだ。
「二宮先輩、浮気したでしょ」
「はあ!?」
大袈裟に驚いてみせるのも、わざとらしくて何もかもムカつく。
堂島はひるまずに、言いたいことを全部言った。
「これでも勘はいい方なんです! 別にいいですよ、本気じゃなくて遊びなら。俺と付き合って他でもイケるようになったか確かめるために他の男とも寝てみたんでしょ?」
「おい待て堂島、さっきから何言ってんだ。妄想が過ぎるぞ!」
「でも俺のところに帰ってきてくれたから、拳一発で許してあげます」
堂島は『ハァ~』とわざとらしく拳に息を掛けて温めた。
「待て待て待て!」
「それとも蹴りがいいですか?」
「待て、マジで待てって!! してない、浮気なんかしてねぇから!!」
(やましい事がないならすぐ言えるはずだろ、二宮先輩の性格ならなおさら……)
「どうせアレでしょ、結婚式で昔の友人と会って魔が差したんでしょ? よくある話ですよねぇ」
「だから浮気してねえって!! 俺は二次会のあとすぐお前んちに行っただろうが!」
「……本当に二次会だったんですか?」
「本当だ! 友人に確かめてもいい!」
「友人もグルかもしんねぇじゃん」
「どんだけ疑り深いんだよ!」
二宮は両手で堂島の手を握りしめて、必死に弁解している。
堂島はここまで必死な形相の二宮は、同僚としても恋人としても初めて見た。
「……じゃあ、何で様子がおかしかったのか教えてください。言えないなら俺はこの先もずっとアンタが浮気したからだって思うからな」
「それは無い、マジで無い! あ~もう、話すから!!」
「何キレてんすか、ウザッ。二宮先輩、今の自分の立場分かってます?」
「勝手に浮気男の立場にするな!!」
二宮は普段のらしさの欠片もなく、大声で叫んだ。
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