2903人が本棚に入れています
本棚に追加
第25話 酔っ払いの相手は難しい
「看護師さんたち~、私も混ぜてくださーい。あっちオジサンしかいないから、話が合わないのビミョーにきつくって~」
わざとおどけた調子で言いながら、那須がグラスを持ってナース達のテーブルに来た。それを有坂と若葉が『アハハ、いーよいーよ、おいで~』と笑いながら温かく迎えた。――しかし、次の瞬間。
「んじゃ、オジサンは退散しよーっと」
そんなことを言ったものだから、オジサンの自覚がある(?)榛名が笑いながら立ち上がった。どうやら席を開けるために、那須と入れ替わりでMEたちの方へ参加しようと思っているらしい。
ほぼ榛名が目当てでこっちのシマへ来た那須は、慌てて弁解した。
「!? は、榛名主任さんは全然オジサンじゃないですよ!!」
「え? アハハありがとー。でも気を遣わなくていいよ、だって俺がオジサンじゃなかったら堂島君や相川君も違うじゃん」
「あ、あの人たちはオジサンだけど榛名主任はなんか違うっていうかぁ~……」
しどろもどろで苦しいことを言う那須に、聞いていた堂島と相川が反発した。
「おい! それはちょっと聞き捨てならねぇぞ那須、こらぁ~! 俺はこう見えて榛名君より年下だぞぉ!」
「那須さん、オッサン扱いはヒドイっす! 同い年なのにぃ……!」
(そうだ、向こうには相川がいたんだった……めんどくさっ。オッサン臭いじゃなくて男くさいって言うべきだったな……)
言葉を間違えて後悔したが、もう遅い。那須も一応反論したが、酔っ払いたちはだんだんヒートアップしていく。
「み、見た目の話ですよ! 榛名主任さんはなんか顔とか雰囲気が可愛いからオジサンって感じがしないんです! それに全然臭くないし!」
那須が榛名を褒めるたびナースたちからは大きな拍手が上がって、榛名本人は「ちょ、みんなヤメテ!」と照れている。
「はあ!? じゃあナニ、俺たちは臭いってか~!?」
「堂島さんはふつーに煙草臭いときあります! 相川は近くにいると整髪料がクッサいし……」
「てめーっ! 真顔で言われると傷付くじゃねーか! 最近は電子タバコばっか吸ってんだぞ俺は! 時々は本物のヤニ吸ってっけどぉ!」
「うう、毎日気合い入れてオシャレしてたのが裏目に出てたなんて……」
相川の整髪料については技士長や師長が近々やんわりと注意するつもりでいたが、同年代の那須がズバッと言ってくれたことで二人は内心ホッとしていた。(あまりうるさく言うと、パワハラだと思われるので躊躇していたらしい)
「やめとけやめとけ二人とも、どっちも事実だろ?」
那須に臭いと言われて凹んでいた二人を、それまで笑っていた二宮がヨシヨシと背中を撫でて慰め(?)始めた。
「二宮先輩ヒドイ~!! てか童顔な榛名くんはともかくとして、俺達がオッサンなら二宮先輩も平等にオッサン扱いしろよな、那須! この人今焼酎の匂いプンプンでいちばんオッサンくせーぞ!」
「え!?」
「お?」
突然好きな人――二宮も同じようにオッサン扱いしろと言われて、那須は狼狽えた。
流れ弾が飛んできた二宮は、何故か楽しそうにニヤニヤしている。
「にっ……二宮さんは、年齢はオッサンだけど本人は別にオッサンじゃないっていうかぁ……(ごにょごにょ)」
「なんだそりゃ! 贔屓すんなよ!」
「堂島さん、那須さんは二宮さんの弟子だから悪く言えないんですよぉ」
相川が無意識にナイスフォローした。が、堂島は納得しない。
「は~!? そんなの関係ねぇだろ、今日は無礼講だっつの! おい那須、正直に言えよ、二宮先輩もオッサンだって!」
「うう……」
(なんなのよこの酔っ払い、面倒臭すぎるんだけど……!)
那須は珍しい堂島の絡み酒にウンザリしたが、飲み会なので仕方ない。二宮も自分がどんなふうに腐されるのかを期待して、楽しそうに那須を見ている。
(そ、そんな目で見ないで……ッ! 二宮さん……前はムカつくオッサンだって思ってたけど、今はもうオッサン扱いなんか出来ないよぉ……!!)
ガシッ!
「!?」
何も言えなくてタジタジしていた那須の背後から、誰かが肩を組んできた。それは酔っぱらった若葉だった。
「那須ちゃん、貴方意外と見る目があるわね……そう、榛名主任は可愛いの!萌えなのよ! 是非私達と飲みながら語りましょう? あんな面倒臭いオッサンたちは無視しなさい、無視! 捨ておくの!!」
「え、え?」
その隣からは、有坂が。
「うふふふ、榛名主任は妖精のように可愛いですからね~、那須ちゃんも榛名主任推しなんて嬉しいですぅ~!」
「や、推し? とかそういうんじゃなくって……」
正直助かったが、こっちはこっちでなんという面倒臭い酔っ払いだろうか。
那須は榛名と少し話したかっただけなのに、(なんかヘンなことに巻き込まれた……!)と蒼くなった。
「もう、恥ずかしいからやめなさい君達……! 那須さんが困ってるだろ!」
「「えぇ~!?」」
榛名本人が助け舟を出してくれて、(チャンス……!)と思ったのだが。
「ねえ、なんか榛名さんを愛でようの会してる? そういう話をするときは俺も呼んでもらわないと……」
いきなりナースたちの背後から、遠くのシマにいたイケメン医師の霧咲が現れたので那須はビクッとした。
「出た! 霧咲会長よーっ!」
「は!? なにそれ!?」
「霧咲先生は『榛名主任を愛でる会』の会長ですぅ」
「何その会!? いつできたの!?」
「たった今発足しました!」
「今!?」
もうめちゃくちゃである。
那須は、この場で榛名に二宮について聞きたかったことを聞くのは諦めた。
最初のコメントを投稿しよう!