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第26話 カラオケ行こ!
飲み会は二時間でお開きになり、次は二次会に行くことになった。
ここで家族持ちの大半は帰ったので、残ったのは独身組ばかりだ。
「堂島君、今日はカラオケとボーリングどっちに行くの?」
「どっちでもいいッスけどぉ、カラオケの方が近くにありますよね~。多数決! カラオケがいい人!」
過半数が手を上げたので、二次会はカラオケに決定した。
「やったーカラオケだ! 俺、カラオケはわりと得意なんですよぅ!」
相川がハシャギながら、隣を歩いていた二宮に話しかけた。
「へ~、俺は最近の曲とか全然分かんねぇから、期待しとくわ」
「二宮さんは何歌うんですか!?」
「そりゃ、一昔前に流行ったジェイポップだな……」
「二宮さんが歌うところ、全然想像できないです!」
そんな2人の会話に、先頭を歩いていた堂島が振り返って無理矢理入ってきた。
「ふふふ……相川、こう見えて二宮先輩は昔バンドマンだったから、めちゃくちゃ歌が上手いんだぜ~!?」
「あっバカ……!」
カラオケは得意でも、バンドをやっていたことは職場には秘密にしていた二宮が慌てて堂島の口を抑えた。
──が、もう遅かった。
「えええ!? 二宮さんバンド組んでたんですかぁ!?!? ひえぇ、カッコイイ~!楽器弾けるんですか!? それともボーカルですか!?」
「う、べ、ベースを少し……」
「凄いですぅ~!!」
「でもアマチュアバンドですから! 大学のツレたちと趣味の範囲内で、全っ然凄くないですから……!!」
二宮は一気に酔いが醒めたようで、食いついてきたナースたちに必死で否定している。
病院の新年会などで是非演奏してくれ、と言われたくないためだ。
「え~? そんな謙遜しなくてもいいじゃないですかぁ~」
「二宮さん職人気質だし、絶対楽器も極めてた気がする!」
「うーん……まあ、それなりには……」
「「やっぱり~!」」
(に、二宮さんがバンドマンだった!? ベースが弾ける!? 何それ、めちゃくちゃカッコイイんですけど!!)
こっそり後ろで聞いていた那須も、思わぬ二宮情報に静かに興奮していた。
「でも堂島君、よくそんなことまで知ってるね。本当に二宮さんと仲良しなんだ」
「トーゼン! 二宮先輩の一番弟子はいつまでもこの俺ッスからね~!」
「……!」
堂島の言葉に、那須は少しムッとした。
(何よそれ、張り合うみたいに……今は私が二宮さんの弟子なのに!)
榛名はこっそりと近くを歩いていた霧咲の隣に行き、今のことを聞いてみた。
「霧咲先生は知ってましたか? 二宮さんがバンドやってたこと」
「いや、……初耳だね」
前に相談されたときに話の流れで聞いた気がするが、二宮のプライバシーにも関わることなので霧咲は言わなかった。
「そうですか、……じゃあやっぱり堂島君がトクベツなんだ」
「そうらしいね」
霧咲と二宮は秘密を打ち明けられるほど仲良しではない、ということが分かって榛名はホッとして微笑んだ。
「榛名君、分かってるぅ~!」
「コラコラ堂島君、『榛名主任』でしょ。さっきから呼び方が戻ってるわよ~」
「ゴメンって若葉さん! 仕事中じゃないから勘弁してよ~!」
「榛名主任、どうします?」
「……まあ、今日は無礼講らしいからいいんじゃない?」
「やったぜ」
今日は無礼講だと言い出したのも堂島なのだが、榛名はそれに乗ってあげた形だ。
そして一行は、電飾がビカビカ光って目に痛いカラオケボックスに吸い込まれて行ったのだった。
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