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「あの、これ私のじゃないです」
5秒ほどの沈黙の後ようやく吐き出した言葉。
恐らく掠れ声になっていただろう私の声。
見知らぬ人に声をかけられたこと、見覚えのない簪、ちょっとした非日常に私の脳はうまく働かなかったようだ。
「確かに貴方が落としたと思うんだが」
違うと言っているのにやたら確信めいた口調で詰め寄られた。そのまま簪を差し出してくるおじいさん。
「私簪なんて使わないし…」
しどろもどろになりながら答える。
「おや、そうかい。それはすまないねぇ」
先ほどとは打って変わってお爺さんはあっさりと引いた。何だか怖いので私はそそくさとその場を去った。
「・・・」
まだ、見られてる気がした。
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