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その日不思議な夢を見た。
真っ暗で何にもない場所。かろうじて足元に見える一本道。此処にあるのは前という概念だけ。それでも不安はなかった。道の先に少しだけ見える光。あれさえあれば大丈夫だと漠然と思える不思議な光があった。
そのかわり、後ろからは何とも言えないゾワゾワとした闇が追いかけてくる。
安心を求めるように前へ進む。
追いつかれないように前へ進む。
怖くない。怖くはない。ただ進む。
ひたすら進んで暫くすると、光の先が見えてくる。後少し、ほんの少しで手が届く。
見えたのは、簪。
私の意思じゃない。それを認識した途端に前へ進む足が止まらなくなった。そして呼応するように手先が動かせなくなる。
落ち着くのに、欲しいのに、手が届かないのはどうして?このまま後ろに呑まれてしまえば追いかけてくる闇に消えてしまうのに。
今までの安堵が嘘のような恐怖。一体何故、今まで安心できていたのかもわからない。
怖い。怖い。怖い。
その刹那、人の気配。
「ねぇ,忘れ物だよ」
そう言われて差し出された簪は、かんざしは、わたしの?
「拾ってくれてありがとう」
ぼうっとしたままそう言葉を返す。今度は掠れずに出た声。拾ってくれたのはだれ?
何にもわからないまま、戻って来てくれた簪にただただ安心を覚える。そしてそのまま私の意識は微睡んだ。
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