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ばち、とスイッチを入れられたように覚醒した。
まぶしい。
顔をしかめる。目の前に花のような形をしたライトがあった。なんだこれ。こんなの家にあったっけ? っていうか、どこだここ。
えっ、犯罪?
下手に動いたら何かが確定してしまいそうでぼうっとしていたのも束の間、今日の予定を思い出して跳ね起きる。
十時からプレゼン。九時には会社を出て、だから八時には出社して資料印刷して、そういや修正版うけとったっけ?
慌ててスマホをつけると、朝七時を過ぎたところだった。よく寝た実感があったから、てっきり寝坊したかと思ったけれど、ぎりぎりセーフだ。
よかった、と胸をなで下ろしたのも一瞬で、ベッドの下でうずくまる影に本日二度目の動揺が襲う。
なんだこれ、いやちがう、誰だこれ。
慌てながらもそっとベッドから抜け出そうとして(どうみてもキングサイズはあるベッドは、端まで行くにも一苦労だ)、最後の最後でシーツに足をとられてひっくり返った。
「起きましたか」
物音に、タオルケットの山がのそりと起き上がる。なかから出てきたのは例のシロクマ――もとい、大柄な男だった。あちこちに跳ねた髪の下から、不機嫌そうな両眼がじとっと陽を見つめている。えっ、なんで? もしやストーカー?
「起きたなら、さっさと出てってくれませんか。寝不足なんです」
はっとして部屋を見回す。幼稚園児が描いた家みたいな部屋だった。広いワンフロアのど真ん中に、バカでかいベッドが一台。足の方向にはダイニングテーブルとキッチンがあって、どうやら横長の居間の片側にベッドが置かれているらしい。ソファやテレビは一切なく、花の形のライトが乗ったナイトテーブルが唯一の家具らしい家具だ。
自分の家でもなければホテルらしくもない。ということは、この男の家と考えて間違いないだろう。
「す、すみません」
寝起きのかすれた声で慌てて立ち上がる。ちゃんとワイシャツを着ているのになぜか足がすうすうすると思ったら、スラックスを履いていなかった。
んぐ、と変な声が勝手にのど奥からあがる。
「あの、俺の服って」
「そこに畳んであります」
「ぬ、ぬがせ……?」
「当たり前じゃないですか」
いやそうか? いくら寝づらそうとはいえ、いきなし他人の服、剥ぐか?
「シーツがよごれるの、耐えられないんで」
「あ、そっち……」
すわ不審者かと身構えた力が抜けて、陽は丁寧に畳まれたスラックスを履いた。ベルトを締め、カバンのなかの社用携帯を見ると、後輩から連絡が入っている。
ヤバい、プレゼン。
「あの、すみませんでした、ほんと。ちょっと急いでて、お礼はまた後日改めて!」
靴ベラを探す手間も惜しんで革靴をつっかけ、おざなりに一礼して、陽は外に飛び出した。
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