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 結論から言えば大成功だった。  三社合同コンペのトップバッターと聞いたときは、後輩の運の悪さに天を仰ぎそうになった。競合は地元鉄道とゆかりの深い老舗広告屋と、新参だけど全国区の総合広告会社の子だか孫だかの会社だ。何の後ろ盾もない、ぽっと出のイベント会社である陽たちは、あからさまに数合わせだった。  なのに蓋を開けてみれば圧勝だった。たしかに企画も資料も一番よかったと自負しているけれど、なにより、抜群に調子がよかった。  自分が次に何を用意し、何を答えればいいのか、まるで選択肢が浮かんでいるようにわかった。だから陽は、後輩が答えられない質問に迷うことなくフォローを入れ、口にも出されないクライアントの懸念を先回りして潰し、相手のもっとも望んでいる言葉を選んで、一番いい時に差し出すだけでよかった。  その場で契約書にサインをもらって、晴れ晴れと社屋に戻る。電話で一報いれておいたのにビールの一本もなかったのは不服だけれど、かわりにパートさんの熱いハグが待っていた。正社員の事務員がいないこの会社で、経理や事務を一手に引き受ける彼女にもみくちゃにされ「やめてくださいよ沙苗さん!」と悲鳴をあげる須永を見ながら思った。  睡眠って、すげー。  午後になったというのに、ひとかけらの眠気も訪れない。目の表面に水の膜が張っているかのように視界はすっきりとクリアで、肩も軽い。普通に息を吸っているだけなのに、酸素は肺の奥深くまで入り込み、毛細血管のすみずみまでエネルギーが満ち渡るようだった。  人間、やっぱ寝ないとダメなんだな。  時間を無駄にしている気がして、どうにも長く眠ることが苦手な陽も、ここまで効果を実感してしまえば認めざるを得なかった。  久しぶりに定時で退社し、その足で昨晩のお詫びの水ようかんを入手して、まだ明るい道を歩きながら陽は反省する。  記憶に新しいドアの前に立って、さすがに少しだけためらう。  アポなしで突撃って、どうかな。けど、連絡先聞き忘れちゃったし、お礼もなしで、はい、さよなら、も人としてちょっと。知らない人にどう思われようと気にしないけど、きっちり礼を言った方が、心地よく忘れられる。  いなかったらドアに掛けておこう。そう思いながら、陽は平屋のベルを押した。しばらく待つと、返事がある。 『はい』 「あの、昨日お世話になった渡来と申します。今朝、バタバタしてお礼もできなかったので、改めてご挨拶にうかがいました」 『……はあ』  不機嫌そうな声だった。寝起きか? 寝不足って言ってたもんな。 「あの、あれでしたら玄関先にお礼の品を置いておきますので」 『いや、待って』  ぷ、とマイクが切れて、ドアが開く。
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