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「とはいっても、僕たちにできることは、どんなときにも安心してもらえる布団をつくることだけなんですけどね」
「いやいや、それが一番大事やないっすか」
「そうそう、シーツ新調しただけでちょっとわくわくしますもん」
芸人たちのフォローに、恐縮ですと頭を掻く。
「ヨウさんもきっと、そういう人たちに向けて、動画を作られているんですよね」
「……ええ」
野生動物は熟睡しないという。
その一方で、長距離を飛んで移動する渡り鳥なんかは、右脳と左脳を交互に眠らせながら、止まり木に降りることなく飛び続けるし、ちいさな虫ですら、わずかな時間とはいえ眠りを必要としているらしい。
生きるうえで不可欠で、けれど貪りすぎると命取りになる「睡眠」。
彼は、そう思えば、不思議な人だ。
眠りたくないと願い、けれど仕事のために眠りたいと願う。夜みたいな隈を張り付けて現れた人。
好きでもない仕事を、居場所があるという理由で、真面目に丁寧に、こつこつ頑張っている人。
眠るのが怖くて、だから忙しい仕事を選んで、そんな自分を卑下しながら、それでも頑張るのをやめない人。
水岡の仕事を心から褒めてくれて、けど水岡からしてみれば、よっぽど自分よりすごい仕事をしていると思う人。
最初は、よくいる「寝ずに働く俺かっこいい」タイプの人間かと思った。次に、よっぽど仕事が好きなのか、それとも真面目すぎるのかと思った。今の仕事を選んだ理由を聞いたときは、たまらない思いになった。
水岡の家でよく眠れたからと、生活を見直す子どもみたいな素直さ。
仕事に対する屈折した思いと、それでも踏んばり続ける芯の強さ。
失礼と捉えられることの多い、水岡のそっけない態度をやわらかく受け止める柔軟さ。
辛い物が好きで、ハーブティーは苦手で、初対面の男の家で爆睡するくせに、センスのいいお詫びの品なんて持ってくる、柔和な笑顔の下にたくさんの表情を隠した陽に、いま、会いたいと思った。
「えーでは、お悩みの回答としては『普通やで』ということでね」
「雑すぎやろ。まあ、ある意味一番楽しい時期かもわかりませんので、睡眠不足はつらいかもですけどもね、しばらくどきどきを味わってみてもいいのではないでしょうか」
もちろんつらくなったらこのマットレスを……と抜かりなくCMをはさむ。
画面から自分が外れたその隙に、視線を動かす。窓の向こうでは、昼と夜が交じり合い始めている。
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