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「百均って便利ですね」
カチ、とスイッチが切れた。けれど、辺りをやさしく照らす証明が、水岡の目に光景を届けてくれる。
「……水岡さんって、案外、っていうか結構、萌えキャラだよね」
陽は困ったような顔で、わずかに首を傾けた。まったく意味がわからない。
「あなたこそ、なにしてるんですか?」
「復讐」
「は?」
「いや、ちがうな。待ち伏せ?」
いずれにせよ物騒すぎる。率直な感想が表情に出ていたのか、陽はすぐに「冗談だよ」と笑った。
「香泉堂さんのイベントの運営のお手伝い。人件費削減で、社員も総出なの」
言われてみれば、企画書に書いてあったかもしれない。冬至の日、駅前でのプロジェクションマッピング。
「こんなイベントでしたっけ?」
話を長引かせる気はないのに、つい訊ねてしまった。たしか、企画段階では「夢海原」の名前にかけて、天幕に青い海の映像を投影すると書いてあったような。ほかにもヒーリングミュージックの生演奏とか、ハーブティーのケータリングとかを目玉にするとあった気がする。
「色々あって、没になったんです。リアルイベントはひかえめにして、代わりにアプリで」
「アプリ?」
「あれ」
指さされた先の電光掲示板に、控えめな案内が浮かび上がる。『落ち星のキャンドルナイト』
「今日限定の専用アプリ。ダウンロードして開くと、ちいさな星がひとつもらえるんです。そのまま画面を触らずにいると、少しずつ、錯覚かなってくらいの速度で増えていく。これならリラックス効果もありそうだし、寝る前までだらだらスマホいじらなくなるだろうって」
ポケットから取り出したスマホの画面を見せてくれる。暗闇の中央に、ふわふわと小さな綿毛みたいな光が浮かんでいる。
「三時間後にはランダムで星座が完成して、それが自動で記録されます。その画像をSNSにハッシュタグ付きで投稿すると、抽選で『夢海原』が当たる」
「よくできてますね」
「これ、須永が作ったんですよ」
「は?」
部外者の水岡にもわかるほどこじれていた後輩の名前を、急に出されて混乱する。あんなに悩んでいたのに、もう仲直りしたってことだろうか。やっぱり不思議な人だ。
「水岡さんのおかげです」
「なにが?」
「分業の話。得意なことを任せてみたら、すごくうまくいった。俺も、楽しかった」
屈託なく微笑む陽に、はっきりと戸惑う。
だって実際に行動したのは陽なのだから、自分のおかげと言われたって胸を張れない。
だいたい、自分は確か、この人を手ひどく突き放したような気がするのだけれど。
「もうなんなんですか、あなたは」
「なにが」
「きついこと言っても平然と寄ってくるし」
「だって水岡さんおもしろいんだもん」
メンタルが鉄鉱石とかでできてるんだろうか。
「こまる」
「なんで?」
「眠れなくなる」
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