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 いって、と耳に吹き込まれる。その声に突き飛ばされるように達した。  筋の張った首にぎゅうとしがみつきながら解放の空白に耐え、やがて腕から力を抜いてベッドに身を預ける。  犬のように口を開けて呼吸しながら見上げた水岡は、ほんのり明るい部屋のなかで、迷うようにじっと陽を見おろしていた。 「しないの?」 「したいです。けど」  いきなりは負担が、とか、痛みが、なんでぶつぶつつぶやく口をふさぐ体力はなかったので、陽は寝転んだまま両腕をひろげた。  不思議そうにかぶさってくるその顔をはさむように手をあて、笑う。 「俺はしてほしいよ」  かさついた頬を親指で撫でながら、そろりと膝を持ち上げる。  傷つけないようにそっと水岡の股の間で兆しているものに摺り寄せれば、整った眉がぐっと寄った。 「……たちが悪い」 「へへ」  ぐっと大きな身体をのばし、十分に買い込んだローションの封を切る。ひたとあてられた指の冷たさに一瞬心臓がすくんだけれど、すぐに熱に馴染んでわからなくなる。  もちろんそこを使った経験などなくて、だから心の準備はできていても、身体の素直な反応はどうしようもなかった。  こわばる肉をなだめるように、水岡はじれったいほど時間をかけて指を入れてはゆっくりと動かす。 「つらい?」 「っ、わかんな」  本音を言えば脂汗が出るほど気持ち悪かったけれど、止めたくない気持ちのほうが大きかった。  必死で呼吸を整えていると、苦いコーヒーに砂糖を振るように、萎えかけた性器をあやされる。快感と不快感がマーブル模様に交じり合って、緊張と弛緩を繰り返した身体が混乱し始めた瞬間をねらったように、腹の奥でちいさな火花が散った。 「……あ」  触れられた瞬間、何かのスイッチを入れたように身体の内がぐねぐねと動き出すのがわかった。そこを拓いている水岡にも、もちろん伝わっているだろう。 「ここ、いいですか?」  ぐ、と指先を曲げるように押し込まれて、陽は悲鳴をあげた。  こんな気持ちよさは知らない。  つめたく感じるほどの高熱で神経を締め上げられたような、逃げ場のない快楽。 「や、まって、そこ、変だから」 「でも、中すごいですよ」 「や、あ、ああ……っ」  あごを、首を、胸を反らす。両腿の間に割り入った水岡にしがみつくことができなくて、深い谷に落ちそうな心細さに、陽はシーツをにぎりしめた。  気持ちいい。怖い。さみしい。はやく。 「痛くていいから、はやくきて」  ほろ、とこぼれた生理的な涙を気にする余裕もなかった。きっとひどい顔をしているだろう。  水岡はぐっと耐えるような険しい顔をしていて、それがひどく遠くに見えた。手の届かないところまで離れてしまったような気がして、急に不安になる。  離れないで。傍にいて。目をつむっているあいだに、もうどこにも行かないで。
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