三話 学校

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三話 学校

次の日。 見慣れない部屋の布団で起きる。ああ、もうすっかり朝だ。そして眠りについたから気づかなかったが、そうだ、ここはもう前に自分の住んでいた家ではないのだ。 春樹は起きると布団を畳み、部屋から外を眺めた。ああ、すごい絶景だ。本当に田舎に来たんだ。周りは山と田んぼばかりでなにもない。 ガラガラガラとドアを開けると、外で家庭菜園の手入れをしている安藤さんの姿があった。どうやらなにか野菜をとっているようだった。これから食べるのだろうか? 「ああ、春樹くんおはよう。目が覚めたかい?どうだった?寝心地は」 「おはようございます。はい、とても気持ち良かったです」 春樹は安藤さんに挨拶を済ませると洗面所に行き顔を洗った。そして台所に行くと奥さんが朝食の準備をしていた。 「春樹くん、おはようございます。よく眠れましたか?」 「おはようございます。はい、よく眠れました。あ、そういえばなにかお手伝いしますか?」 「いえいえ、大丈夫ですよ。そろそろ朝ごはんだけど、できるまで部屋でゆっくり待っていてね」 もう朝ごはん?時間は6時を回っていたが、かなり早い時間だった。やはりこれくらい田舎だとみな早起きなのか。 朝食の時間になると春樹は居間に行って食卓についた。シャケとねぎの乗った豆腐、おしんこに味噌汁という定番の朝食だった。 「じゃあ三人揃ったから、いただきます」 「‥いただきます」 春樹は少し照れながら小さい声でそう呟いた。なんとなく、この食卓に三人でいるのは恥ずかしかった。春樹は一人っ子だったため、実家でも母親と父親と三人暮らしだったが、自分の両親よりかなり上の人たちと食べるのは緊張した。 味噌汁を啜ると不思議な味がした。あれ?なにかいつも食べているのと違う、ん?すっぱい? 箸を入れて具をつかむとそこにはミニトマトの輪切りが入っていた。トマト?味噌汁にいれるのか? 「ああ、驚いた?この辺の人はさ、味噌汁にトマトをいれて食べるんだよ。あんまりなれてないかな?」 「あ、いえ、少しすっぱいけど美味しいです」 春樹にとって新しい環境で食べる食事はとても新鮮だった。味噌汁にトマトか、なんか面白い。いつも豆腐とかワカメとかしかなかったから。 朝食を食べ終えると、春樹は制服に着替えた。ああ、そうだ、これはもといた中学校の制服だ。なんとなく気乗りはしなかったが、教科書を揃え、カバンを持つと、外で待っている、安藤さんの車に乗り込んだ。 「じゃあさ、これから学校に行くけど、まあ今日は初だから気楽にみんなと絡んでよ。なにかあったらすぐ相談してね。遠慮せずにさ」 「はい、よろしくお願いします」 安藤さんはそういうと車を走らせた。いってらっしゃーいという声とともに奥さんが手を振った。春樹は車の中から奥さんに手を振り返した。そして道路を走ると周りの風景が目に飛び込んできた。 「うわーすごい。ほんと、なにもないですね」 夏の朝、田んぼと山ばかりの風景を車で走るのは結構快適だった。東京にいたら見れない光景だ。田舎は色々不便なところはあるかもしれないが、これはこれで爽快だった。 何十分か車を走らせると、学校についた。学校はどうやら古ぼけた旧校舎のようで、木造だった。そして校庭には古ぼけたタイヤだったり登り棒だったり、鉄棒だったり、古びた遊具が少しあるだけだ。まるでここは小学校のようだった。 「ここが、学校?」 安藤さんに案内され、中に入る。中は平凡な廊下だ。それは校舎というよりも児童施設のような雰囲気だった。 時刻は8時半を回っていた。職員室にも寄らず、突然教室の前に連れて行かれた春樹はドキドキしていた。 「それじゃあさ、春樹くん、これからクラスのみんなに挨拶するからまあ気軽に話してね。あー、一人うるさいのがいるけど、まああんまり気にしないでね」 安藤さんがそういうとガラガラとドアを開けて教室に入った。教室に何人か生徒が集まっていた。ん?それにしてもやけに少ない、全部で4人? 「ああ、先生、おはようございます」 「先生おっはよー!ん?」 春樹と同じくらいの二人の女子が安藤さんに話しかける。そして後ろに春樹がいることに気づき、興味を示す。 「ああ、あの新しく来たっていう転校生の子?どうりで席が一つ増えてると思った」 「はい、みんなおはよう。今日は転校生を紹介します。じゃあさ、まずは黒板に名前を書いて自己紹介して」 安藤さんがそういうと春樹は少し不安に駆られながら黒板に名前を書いた。 『雪村春樹』 「雪村春樹です。東京から来ました」 春樹が黒板に名前を書いてみんなにペコっと挨拶をする。ん?教室を見回すとやはり4人しかいない。女の子が3人で男の子が一人。 「へえー東京からきたんだ。何歳なの?」 「あ、中2です。よろしくお願いします」 「へえー中2、じゃああたしとおんなじかあ。確か安藤先生の家に居候してるんだっけ?んで、前の学校で何かやらかしたの?」 同じくらいの歳でロング髪で活発そうな女の子がいきなり話しかけてくる。春樹はドキッとしてなにも返せなかった。身長は160くらいはあるだろうか?中2しては高めだ。顔はとても整っていて可愛い顔をしていた。言われた途端になんと返していいか分からず黙ってしまった。 「おい、夏樹!いきなり失礼じゃないか。ああ、春樹くん、まああんなの気にしなくていいからさ、席に座りな」 「春樹?あ、そうか、春樹って名前なんだね!よろしく!あたしは桜田夏樹。樹がおんなじだね!」 「よろしくね、春樹くん、あたしは海口秋奈。中1だよ」 「あ、あの、よろしく。あたし、月岡美冬。中3です」 夏樹という活発な女の子の次に、一個下と一個上の女の子が話しかけてくる。秋奈はなんとなくほんわかしている感じで美冬はどうも内気そうだ。 「んでさ、あそこにいるのがあたしのにーちゃん、ほら、にーちゃんも春樹に挨拶しなって」 奥にいる、春樹よりも少し背の低いこれまた美冬より内気そうな男子がこちらを見てくる。そして無表情のまま春樹にこう言った。 「はじめまして。俺、桜田海斗。中3です。よろしく。なにかあったらなんでも聞いてください」 そういうとそのまま海斗は席に座った。内気そうではあるが美男子でしっかりしてそうな男の子だ。 「さあさあ、みんな自己紹介は済んだかな?じゃあさ、春樹くん、これからよろしくね」 「え?クラスメイトってこれだけなんですか?」 「うん、まあね。あとは小学校の部に6人いるから全部で10人だけど。君が来たから11人になったね」 安藤さんに案内され、不安があったものの、学校に登校した春樹。前の学校とは違う、全校生徒わずか10人、そして中学校は学年混同のわずか4人のこのクラスで、春樹の新しい学生生活は幕を開けたのだった。
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