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城ヶ崎という男だった。
下の名前はわからない。結局尋ねることもなく別れてしまった。男っ気の多い奏恵の来歴の中でも、トップクラスに早い別れだった。
それ自体はいい。奏恵からしても、大して興味の湧かない相手だった。マッチングアプリでの会話が悪くなかったから、一回食事をしただけに過ぎない。
気に食わないのは、奏恵がまたいつか、と遠回しに別れを切り出したのを、『貴女がそう言うなら』と、すんなり受け入れたことだった。いきなり渡された百合柄の化粧ポーチについても、返せ、とすら言ってこなかった。
まるで自分に興味が無いかのようだった。
二度と会ってやるものか、と思っていたが、弓塚の死の直後、ここ最近の男運の無さに辟易とした頃にふと思い出して、連絡を入れてみたのだ。
初対面の印象は悪く無いはずだ。だからプレゼントをいきなりくれたのだ。そう思い、久しぶりにメッセージを送ったのが、一週間前のこと。
返事が良ければまた食事くらいはしてあげるつもりだったが、一度も返事は来ていない。それが癪に障り、ほぼ毎日メッセージを送り続けていた。
『お久しぶりです。またお食事でも如何ですか?』
『こちらは次の金曜日が空いています』
『もしかしてお忙しいでしょうか?お返事いただければ幸いです』
『何か気に障ることでもありましたか?』
丁寧に送っていたメッセージは、回数を重ねるごとに化けの皮が剥がれていったが、奏恵自身にその自覚はなかった。
駅に着き、傘を受け取り、戻りの電車に乗るまで、都合八度ほど画面を確認したが、返事は来なかった。
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