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もう一度チャイムを鳴らす。やはり返事はなかった。
「だからムリだと言ったじゃろう?」
突然、聞き覚えのある声がした。振り返るとさっきの爺さんが立っていた。
「うわっ!何だよ爺さん。他人の家まで付いてきて!だいたい何でムリなのさ?」
「オマエさん、まだ気づいてないのかい?ほれ、見てみぃ。」
爺さんがドアに手を当てると部屋の中が透けて見えた。
住み慣れた部屋が見える。だけど少し雰囲気が違っていた。寝室の棚の上に飾られた新婚旅行の2人の写真。ベットの上では妻が眠っていた。
「寝てるのか?」
妻に声を掛けたが眠っているのか返事はない。よく見ると枕が濡れていた。
「泣いてるのか?」
やはり返事はなかった。
「オマエさんの声はもう聞こえんのじゃよ。」
妻ではなく爺さんが答えた。
「はぁ?何言ってんだよ爺さん?聞こえない訳ないだろ?」
そう言って妻の肩に触れようと手を伸ばす。だがその手は何故か妻の身体を突き抜けた。驚いて自分の手をマジマジと見ていると
「だからムリだと言ったじゃろう。見てみろ。」
爺さんが指さした方向に目をやると先ほどの新婚旅行の写真の隣にオレの写真が飾ってある。その前にはオレがいつも身につけている腕時計が置いてあった。
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