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「はぁ、はぁ。どうやら間に合ったようだ」
大臣は、肩で息をし、膝に手をついて立ち止まった。街の入り口にたどり着いたのだ。夕日で赤く染まった見慣れた風景が大臣の気を緩ませる。しかし、それも束の間、新たな忘れ物が大臣を襲う。
「しまった、今日は牛乳を買うように頼まれていたんだった。どうしよう」
焦る大臣。それもそのはず。王宮周辺の街とは違い、ここら辺では、日暮れと同時に店を閉める者がほとんどなのだ。だからといって、憧れの目で自分をみる弟妹達に忘れ物をしてしまったなんて言えるはずがない。
困っていたところで、ふと大臣は、路上売りがこの街にもいることを思い出した。路上売りとは、道端にテントを張り、様々な物を高額で売る者たちのことで、入手経路が怪しいものまで販売するので、必然的に夜まで店を開けていることが多いのだ。
とはいえ、手持ちには少しの硬貨しかない大臣。何とか開いている店をと、街の中を駆けまわる。が、その努力も虚しく牛乳を手に入れることはできないまま日は暮れてしまった。
「背に腹はかえられぬ、か」
心を決めた大臣は、道端に張ってあった見知らぬ一つのテントをくぐった。
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