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しかし、しばらくしてから、大臣は店主に会うために、同じ場所に張られたテントをくぐった。そして開口一番こういった。
「怪しい治療法ではないかと疑ってすまなかった。これが約束の27オンスだ。受け取ってくれ」
「いいってことよ。疑われるのは慣れっこだ。それよりさ……」
大臣の言葉に、店主は喜びを隠せていなかった。妹の方も、声には出さずとも喜んでいるようだった。
「ああ、あの治療が行われてから、私の『忘れ物』は一切なくなった……のだが」
「のだが?」
怪訝そうに聞き返す店主。大臣も、納得がいかないというように話を続けた。
「うむう、確かに『忘れ物』はなくなったと思う。しかしそれから妙なことが起こり始めたのだ。王宮殿で働いている時、家から持ってきたはずの鍵やら財布やらがないのだ。そしてなんと!我が家に戻れば、そこに私の鍵やら財布やらが置いてあるのだ!まるで魔法のように!」
真剣な面持ちで話す大臣に、店主は唖然としてしまった。そして、その代わりに妹の方が大臣に問いかけた。
「ねえ、大臣様。『忘れ物』ってどんな意味か覚えてる?」
「へ?…あはは、もちろんじゃないか。…えーとな、む?むむ?」
大臣はひとしきり頭をひねったあと、不思議そうにつぶやいた。
「はて、『忘れ物』ってなんだったっけ?」
了
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