わんこ小隊女隊長と騎士団長の忘れ物

10/16
前へ
/16ページ
次へ
 ロレッタは疲れた脚に鞭打って兵営に飛びこみ、騎士団の紋章が入ったマント止めを示した。 「犬獣士小隊長ロレッタだ、替え馬を頼む! 急いでいるんだ!」  支部の騎士は、片眉をあげて泥だらけのロレッタを大げさに見まわした。 「へえ、あの有名なお嬢ちゃんか。その様子じゃ、お馬から放り出されたのか? だが、お嬢ちゃんのお馬遊びに貸せるような優しい奴は、ちょっとうちの厩舎にはいなくてねえ」  ロレッタは唇を噛んだ。  こうなると思っていた。だから替え馬に期待しなかったのだが、いまの状況ではなんとしてでも都合してもらわなくてはならない。 「――奪いますか」  ドゥがさりげなく腰の短剣に触れながら、目を細めてつぶやいた。  セジも、耳は前のめりになり、口もとには牙をのぞかせて怒っている。  小さな犬獣士だが、本気を出せば通常の騎士よりすばやい。しかもこんな油断した相手なら、一撃で勝負をつけられる。 「いや、大丈夫だ」  獣士から騎士への反抗は、あとで罪に問われるおそれがある。  こんな奴のせいで、かわいい部下を審問官の前に立たせたくない。  ロレッタは、自分の泥まみれの鞘から剣を抜いてつきつけた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加