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ロレッタは疲れた脚に鞭打って兵営に飛びこみ、騎士団の紋章が入ったマント止めを示した。
「犬獣士小隊長ロレッタだ、替え馬を頼む! 急いでいるんだ!」
支部の騎士は、片眉をあげて泥だらけのロレッタを大げさに見まわした。
「へえ、あの有名なお嬢ちゃんか。その様子じゃ、お馬から放り出されたのか? だが、お嬢ちゃんのお馬遊びに貸せるような優しい奴は、ちょっとうちの厩舎にはいなくてねえ」
ロレッタは唇を噛んだ。
こうなると思っていた。だから替え馬に期待しなかったのだが、いまの状況ではなんとしてでも都合してもらわなくてはならない。
「――奪いますか」
ドゥがさりげなく腰の短剣に触れながら、目を細めてつぶやいた。
セジも、耳は前のめりになり、口もとには牙をのぞかせて怒っている。
小さな犬獣士だが、本気を出せば通常の騎士よりすばやい。しかもこんな油断した相手なら、一撃で勝負をつけられる。
「いや、大丈夫だ」
獣士から騎士への反抗は、あとで罪に問われるおそれがある。
こんな奴のせいで、かわいい部下を審問官の前に立たせたくない。
ロレッタは、自分の泥まみれの鞘から剣を抜いてつきつけた。
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