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パヴァルがとまどい、あせった顔になる。
「野盗!? ――ちょっと待て」
ロレッタは彼の話を待つ気はなかった。
「とはいえ、わたしの優秀な部下の敵ではない。途中の支部に引き渡しておいた。――ただ、部下は気になることを言っていてな。野盗から、かすかに狐のような匂いがしたと……」
パヴァルの顔が赤くなる。
「うそをつくな!! 俺はそんなことはやっていない!」
実際、彼は野盗とは無関係だろう。
巡検のときに聞いた話を、ロレッタは思い出した。
わざと騎士団が通る道にひそんでやりすごし、ならず者は騎士団に恐れをなして逃げただろうと油断している後続の旅人を狙う者もいる、と。
(仮にも同僚がそこまで堕ちているとも思いたくないしね)
パヴァルは騎士団長が忘れ物をしたという嘘をついただけ、とロレッタは信じることにした。
だが、もちろんそれですませるつもりはない。
パヴァルにむかって、逆ににやりと意味ありげに笑ってみせる。
「まあ、今回は犬獣士の鼻以外に証拠はないからな。見逃してやる。だが、次にこんな迷惑をかけてきたら、そのときはきっと狐の尻尾をつかんでやる――狐狩りは結構得意なんだ」
ロレッタの嫌味に、パヴァルの顔がますます赤くなる。
うっかり吹き出さないようにするために、ロレッタはかなりの努力を払わねばならなかった。
《了》
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