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仕方なく下馬して彼に近づきながら、ロレッタの鼻の頭にしわが寄る。
「何か?」
「暇つぶしのお散歩などよりも、これを頼みたい」
ひそめた声にさらりと嫌味を混ぜながら、パヴァルは平箱を出した。
ロレッタは警戒しながら尋ねた。
「……それは?」
するとパヴァルは表情を改めた。
「入城の旗頭だ」
ロレッタは驚いた。
騎士団長シルディスは、国王から招請され、今朝未明に兵営を出発した。
国王命令で王都へ入る騎士団には、あらかじめ国王より入城許可を示す旗頭が送られる。
王都前で通常の騎士団旗の旗頭に加えてつけられる王家の紋章入りの旗頭は、遠目にもきらきらしく、国王に頼みとされる証としての最高の栄誉だった。
「そんな大事なものが、どうしてここに!?」
「しっ、そちらの犬どもにも内密にしてくれ。どうも手違いがあったらしい。だから急いでシルディス団長に届けてくれ。通常なら頼むまでもなく自分で届けるところだが、あいにく足をくじいてしまった」
パヴァルはいらだたしげに眉をひそめた。
たしかに、足を軽くひきずっている。
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