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「シルディス団長ならば、この旗頭がなくとももちろん入城できるだろう。だが、陛下より賜った旗印を忘れたなどと世人に知れては、団長の恥となる。行ってくれるだろうな?」
「承知した!」
尊敬するシルディスに恥をかかせるわけにはいかない。
いくら不仲のパヴァルの頼みごととはいえ、この役目は引き受ける以外の選択肢などなかった。
ロレッタは平箱を受け取り、小隊に戻った。
「ヴィエナ、予定変更だ。わたしはシルディス団長に合流することになった。巡検はおまえにまかせる」
副長は頼もしくうなずいた。
「はい、お引き受けいたしました。では五人ほどお連れください」
ひとりでいい、と断る間もなく、ヴィエナは声をあげた。
「――ドゥ、トイ、ケト、ペキ、セジ!」
隊列から五人の犬獣士が進み出た。
(たしかに、道中わたしに何かあったら、かわりに届けてもらわないといけないし)
シルディスに入城旗頭を届けるという任務遂行を考えれば、部下がいるほうが安心だ。
ロレッタはありがたく五人を連れ、平箱をしっかり自分の体にしばりつけ、シルディスのあとを追った。
兵営陰から見送るパヴァルが、にやりとつぶやいた。
「――さすがはお嬢ちゃん。よろしくな」
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