ひと花咲かせて

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 目の前に、スマホが出される。 「お忘れですよ、スマホ。今の時代、失くしたら大変です」  なんとも好感のもてる、ほんのりウェットの効いたセリフだ。  こちらのうっかりミスを、おおらかに許容してくれる懐の広さを感じる。  僕は改めて差し出されたスマホを見、そして彼女を見た。美人の部類だろう。 「・・・ご親切に、どうも」 「座っていた花壇の縁に落ちていました。危なかったですね」 「・・・見ました?」 「え?なにを?」  彼女はきょとんとした。僕は慌てて彼女からスマホを受け取った。 「いえ、なんでもありません」 「では」  スマホを僕に渡した彼女は、笑顔を残してもと来た道へ戻っていった。  この出会いで、恋に発展するなどというのは夢物語だ。
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