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「ひかりトカゲ」
知っているのよ、私の胴体は長くて手足が短い。
とても、バレエをやるには向いているとは思えない。
知っているのよ、私の髪は不気味なほどに漆黒色をしていると。
それを、わざわざ腰より下に届くほど伸ばすなんて嘲笑われる。
知っているのよ、私の顔は小さくて首がないみたい。
いまは、なんとかチュチュを着こなすことが出来たとしても、年齢を重ね、少女になれば誤魔化すことなど出来なくなるわ。
それでも母は、私にバレエを、と言って、舞台のたびに可愛らしい衣装を用意して下さるの。
レンタルでも良いと言うのに、思い出だから、と瞳を輝かせてオーダーメイドを選ぶのよ。
きっとバレエをやりたかったのは、幼い頃の母だったのだろうとわかっているわ。
こんな私に、華やかでつま先を潰して踊り、演じることが向いているとは思えない。
だけど、母の夢だったのであれば、同じように優しい夢を見て、そのドレスを舞台の回数無垢な笑顔で受け取るわ。
いつの間にか、大量の衣装に埋もれた部屋。
いつの間にか、レッスンへ送り届けてくれる車はなくなっていた。
いつの間にか、仕事でいない母に道を習い、お教室まで歩いたわ。
いつの間にか、私がやって来ると、先生が困った表情で挨拶だけをするようになったわ。
いつの間にか、もう何も教えてもらうことは出来なくなっていたの。
私は、バレエのお教室をやめることになったわ。
それでも、舞台があると聞くと、母は衣装を考え、手作りをするようになったわ。
上等な生地やレース、チュールやオーガンジー、材料は手に入れることが出来ないと言って、母は自分の服を何着も使ってそう見えるような、もしかしたら紛い物と言われてしまうかもしれないドレスを仕上げてた。
それでも私は、無垢な笑顔で受け取るわ。
トゥシューズは、もうとうの昔に足の大きさには適してない。
これではまるで、纏足のよう。
それでもギュウギュウに押し込んで、何度かはやせ細った母の前でバレエを見せた。
限界を迎えたシューズは、ある日突然破けてしまって、母は胸に抱くと肩を震わせて泣いていたわ。
知っているのよ、私の胴体は胸が膨らみ肩幅も広くなった。
とても、今の母から与えられるドレスが似合うとは思えない。
知っているのよ、私の髪は不気味なほどに漆黒色をしていたと。
それを、わざわざ腰より下に届くほど伸ばしていたのは、この為と。
知っているのよ、私の顔はもうボーリングだまと同じ重さで、首もひょろりと年相応。
すでに、どうしたってチュチュを着こなすことなど出来ない年齢になり、誤魔化すどころかつんつるてん。
お人形さんでいる夢を見終わった私は、鋏を背中に滑らせる。
冷たいこの刃が、私を逃がしてくれるでしょう。
床に散らばった、それらはまるでトカゲのシッポ。
スポットライトは、もう二度と私と母の夢を照らさないのだと。
どうぞ、わかって下さいな。
するすると、そのまま呆然とする老婆を置いて家を出る。
新しく、違った種類のひかりを当てて、私に影を落としてくれる、そんな人を探すのよ。
わたしは、ひかり、ト、カゲ。
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